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「所長、あまり遅くまで残らないようにしてくださいね。体に悪いので」
そう言い残し、歌と舞は近くの寮へ帰っていった。
「……」
二人がいなくなり、静かになった部屋。
「こんなに静かだと昔を思い出すなぁ」
「そうですね、康生。直斗くんの息子が入ってきましたしね。少しお話しましょう」
大きなモニターのスイッチがついた。
その声はモニターから聞こえた。
「スピット。やっと目を覚ましたのか」
「すみません。寝落ちしていまして」
スピットはお茶目なところもありながら礼儀正しく、所長のパートナーである。
「本当か? 出てくるのが恥ずかしいだけかと思ったけど」
「嘘ではありません。信じてください」
「でもずっと引きこもっているとみんな君の顔を忘れてしまうかもしれない。たまには顔を出したらどうだい?」
「考えておきます」
「なぁ、君はどう思うかい、竜樹のこと」
「……直斗くんに本当にそっくりです。でも活発。さすが高校生、と言った所でしょうか」
「彼は誰にでも優しく信頼されていた。本来ならば彼がこの席に座るはずだったんだ。なんで僕が座っているのか不思議でさ」
「一年半前のことですね。よく覚えています」
所長と直斗は同じ年に入った同期だった。
「なんで君が所長じゃないんだろう」
あるとき、そう口にした。
「僕なんてまだまだ。康生は人をまとめる力が僕よりも上だから君がなって当たり前なんだよ」
直斗はずっと笑っていた。
「きっと僕のことを考えての発言だったんだろうね」
「あの人は……最期まで優しく暖かい人でした」
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