一章 出会い

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「それじゃ、行ってくるよ」 四月は出会いの季節である。 そう中学の担任が言っていたような気がする。 「ごめんね竜樹(たつき)。今日も仕事で。入学式、本当は行きたいのに」 母さんが寂しそうな声で言ってくる。 「仕方ないよ。父さんが死んで、大変なのは知っているし。それじゃ」 「気をつけてね」 ドアを閉めるまで母は手を振っていた。 それ程気を使わなくてもいいのに。 高校は歩いて十分ほどにある。 学力もそれほど高くないし、自由な校風が人気を集めているとか。 校門をくぐれば大きな桜が出迎えてくれる。 「おお……」 思わず声が出てしまった。 クラス発表はまだなので写真撮影や昔ながらの友人と話をする者まで様々だった。 「竜樹!」 背後からの声。 「健人(けんと)! 久しぶりだな!」 昔ながらの友人、吉田健人だった。 「元気だったか?」 「まぁまぁって感じ。そっちは?」 「もちろん……ゲームのしすぎで母ちゃんに怒られてしまったわ!」 笑い事じゃないだろ、と突っ込んでおく。 「お前、一人なのか?」 「今は、な。あとから合流って感じ。でも親来るといろいろと文句ばっか言われるからめんどくさいんだよな」 『えー、新入生の皆さん!まもなくクラス発表です!』 もう少し話したかったが仕方ない。 「行こうぜ、竜樹」 「おうっ!」 「えーと、吉田健人……上城(かみしろ)竜樹……二組! お、同じクラスじゃねぇか!」 反射的に俺と健人はハイタッチをかわす。 「よし、教室に向かおうぜ!」 健人は俺の腕を強く引っ張る。 その勢いでコケそうになってしまった。
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