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「いまから、今日は、食べるよお兄ちゃん!」
妹が箸でネギをつまんだ。
「おお頑張れ」
僕はネギを大げさに眺める妹に、応援の言葉をかける。
「いくよ」
妹は、口の中にネギを入れた。そしてちゃんとかんでいる。
「うえにが」
すごい嫌そうな顔を妹がつくる。
「だよなわかる」
「わかんのお兄ちゃん?」
妹はネギをすぐに飲み込んで、僕に少し顔を近づけた。身近なところに仲間発見という感じだろうか。
「あんま僕も好きじゃないからな」
といっても今はまあ結構美味しいなと思い始めている。
「そうなの? じゃあ遺伝じゃん」
「まー、そうかもな、昨日はなんか色々言ってたけど」
「え、あ、昨日……そうだった、私はお兄ちゃんの妹じゃないんだよ」
「喧嘩してそういう設定になったんだったな」
「ま、でもネギが嫌いっていう共通なところがあるならお兄ちゃんを許す」
「ネギの効果強いな。ちなみにネギは風邪にも効果があるらしいぞ」
僕は笑った。ネギにほんとに風邪への効果があるかは知らん。
でも、ちょっと喧嘩中だった僕と妹の間の雰囲気を、和ませる効果はあるみたいだ。
「ふーん」
「どうでもよさそう」
「まあどうでもいいかな。だって嫌いだし」
「そうか、でもどうして食べる宣言したんだ?」
「学校の給食の結構なメニューにネギが入ってる」
「あー、なるほど、大変だなあ」
思い出せばそうだったかも。メニューは豊富な給食だけど、なんだかんだで登場する食べ物ってあるよね。
「しょせん人ごとですか」
「まあな、僕は高校の食堂で毎日好きなもの食べられるからな、僕は、毎日ラーメン食おうと思えば食えるぞ、流石にしないけど」
「ずるい! あ、でもラーメンはネギが入ってないのがいいな」
「やっぱネギ嫌いなんだな」
「うん」
「でも、そこまで嫌いじゃないよな」
「え?」
「だって苦そうにしてるの演技っぽいしな」
僕は妹を見つめた。わかるよ。そんな苦そうな顔してなくて苦いって言ってたのとか。
「お兄ちゃん、すごいね」
妹はうそをついていたのを認めた。
「まあ、すごいかな」
てきとうなことを言ってみる。
「でもさ」
妹は残り少ない夕飯を口に運びながら続けた。
「お兄ちゃん、私がこう気を引かないと、さっさと食べ終わったら自分の部屋行っちゃうでしょ」
まあ、な、だって忙しいし。
そう言おうとしたけど。
明日は少し時間がある。
「明日……ラーメン食べに行く?」
「え? お兄ちゃん、いいの?」
「急に行きたくなった」
「え、え、嬉しい……」
そっか。だよな、たまには妹とゆっくりする時間もいいよな。だから僕もきっと嬉しい気持ちになっている。
「ねえお兄ちゃん、でも一つ言っておくけど」
「なに?」
「私、すごい嫌いってわけではないけどそんなに好きじゃないのはほんとだから、ほんとにラーメンは、ネギ抜きで」
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