発端

4/4
前へ
/4ページ
次へ
工場から出た未来たちはホテルに戻ると、会議室を借りて夕食の時間まで打ち合わせを始めた。 「こんなにこだわりのある企業だから、今までも広告を打ってきてますよね。新商品を発売するのをきっかけに、フォアフロント企画に依頼があったんですか?」 未来が言うと、はっ⁉︎と一斉に驚きの声が上がり、3人が呆れた様子で未来の顔を見るので、えっ?と未来は首を傾げた。 「こういうとこなのか?青島社長が惚れたのは?」 石原が和田と涼子に向かって言うと、2人とも肩をすくめて笑い出した。 「さあ、どうなんでしょう。でも翻弄されてるのは社長と思いますよ。」 和田がそう言うと、涼子は何度も小さく頷いた。 「私も最初は未来の心配していたけど、今は社長にせいぜい頑張れって言ってやりたい気持ちになってますよ。」 すると未来は眉間にシワを寄せて、声を荒げた。 「何なんですか?今は青島社長は関係ないでしょ。」 すると涼子が口を開いた。 「あのね未来。ここの広告手掛けたのは、代理店時代の青島社長なの。それからはずっとあちらさんが広告を請け負ってる。あなたが言う通り、この炊飯鍋だけがフォアフロント企画に任された仕事なの。」 涼子の話に、未来は目を見開いて和田の顔を見た。 和田は、そうだと言わんばかりの顔で頷いて、言葉を続けた。 「異例中の異例だよ。青島社長だから実現した仕事だ。」 すると石原が皆が思っているであろうことを、聞いてきた。 「未来ちゃんは青島社長から何も聞いてないの?」 石原は年長者という理由とその気のいい性格で、ただひとり女性社員を名前で呼ぶのを許されていた。 「自分を知ってくれているから、後日こちらに伺うとは聞いてましたけど、それだけです。」 そう言って口を尖らす未来に、石原は優しく言った。 「未来ちゃんは、そうやって自分の目で見た青島社長だけを信じてやってよ。」 思いがけない石原の言葉に、未来はたじろぐ。 「あいつは誤解も多いけど、男からも女からも慕われる奴だ。年上の俺でも、ついて行こうって思えるくらいだからな。未来ちゃんみたいな女性に惚れてくれて、俺は心底良かったと思ってる。」 隣に座っていた涼子が、戸惑う未来の背中を、ぽんぽんと軽く叩いた。 「みんな驚くだけ驚いたら、応援したくなる2人ってことだよ。だから、そのままのあなたでいいと思う。」 涼子と石原そして和田までもが、まるで我が子を見守る親のような目になっていて、未来は顔をしかめた。 「さっきまで馬鹿にしてたくせに〜。なんか嬉しいじゃないですか。」 必死で照れているのを隠そうとする未来を見て、皆はまた笑い出した。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加