発端

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未来を見送った後、そのまま出社した青島は、始まったばかりの1日を前にため息をつく。 長い1日になりそうだ、とコーヒーを入れようとした時だった。 ゆっくりと入り口のドアが開いて、誰かが入ってきた。 「おはようございます。早く着きすぎちゃって大丈夫でしょうか?」 すぐには誰だか分からず、青島は入ってきた女性をまじまじと見た。 「あの、青島社長?」 怯えたような上目遣いで名前を呼ばれて、やっと派遣社員の松本明穂(   あきほ)だと認識することが出来た。 「おはようございます。松本さん。随分と早い出社ですね。」 「すみません。コンビニで朝一にゲットしたい物があって、いつもより早く家を出たんです。だめ元で来てみたら会社が開いているようだったので、入ってきちゃいました。」 「そうでしたか。それなら今朝はタイミング良かったかな。」 ニコッと笑った青島に、明穂は一瞬で頬が高揚するのが分かった。 「コーヒー飲みますか?ちょうど入れようと思ったところだったんです。」 青島がセットするのを見て、明穂は慌てた。 「私がやります。」 すると豆が入っていた缶を落としそうになって、それを捕まえようとした青島の手に触れた。 「ごめんなさい。」 頭を下げた明穂に、青島は手を止めることなく声を掛ける。 「仕事以外のことに関しては、自分のことは自分でするのがルールです。気にしないで。」 頭を上げた明穂の視線の先には、優しく微笑む青島の姿があった。 8時を過ぎた頃から、ちらほらと社員が出社して来ると、青島と明穂がいるのを見て、おやっとした表情を浮かべて席に着く。 「おはようございます。松本さんどうしたの?」 出社してきた麻里子も、普段は自分よりも遅く出社する明穂が座っているのを見て、驚いている。 「おはようございます。コンビニに朝一で行きたくて、用を済まして会社に来てみたら、青島社長がいらしていたので助かりました。」 「社長も今日は早かったのね。」 麻里子は社長室に目をやってから、ふと何かに気が付いたようにふふっと笑った。 「どうかしたんですか?」 明穂が不思議そうに尋ねると、麻里子は意味ありげに笑って首を振った。 「タイミング良かったわね。」 青島と同じことを言う麻里子に、明穂ははにかみながらひとり頷いた。
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