3人が本棚に入れています
本棚に追加
未来を見送った後、そのまま出社した青島は、始まったばかりの1日を前にため息をつく。
長い1日になりそうだ、とコーヒーを入れようとした時だった。
ゆっくりと入り口のドアが開いて、誰かが入ってきた。
「おはようございます。早く着きすぎちゃって大丈夫でしょうか?」
すぐには誰だか分からず、青島は入ってきた女性をまじまじと見た。
「あの、青島社長?」
怯えたような上目遣いで名前を呼ばれて、やっと派遣社員の松本明穂だと認識することが出来た。
「おはようございます。松本さん。随分と早い出社ですね。」
「すみません。コンビニで朝一にゲットしたい物があって、いつもより早く家を出たんです。だめ元で来てみたら会社が開いているようだったので、入ってきちゃいました。」
「そうでしたか。それなら今朝はタイミング良かったかな。」
ニコッと笑った青島に、明穂は一瞬で頬が高揚するのが分かった。
「コーヒー飲みますか?ちょうど入れようと思ったところだったんです。」
青島がセットするのを見て、明穂は慌てた。
「私がやります。」
すると豆が入っていた缶を落としそうになって、それを捕まえようとした青島の手に触れた。
「ごめんなさい。」
頭を下げた明穂に、青島は手を止めることなく声を掛ける。
「仕事以外のことに関しては、自分のことは自分でするのがルールです。気にしないで。」
頭を上げた明穂の視線の先には、優しく微笑む青島の姿があった。
8時を過ぎた頃から、ちらほらと社員が出社して来ると、青島と明穂がいるのを見て、おやっとした表情を浮かべて席に着く。
「おはようございます。松本さんどうしたの?」
出社してきた麻里子も、普段は自分よりも遅く出社する明穂が座っているのを見て、驚いている。
「おはようございます。コンビニに朝一で行きたくて、用を済まして会社に来てみたら、青島社長がいらしていたので助かりました。」
「社長も今日は早かったのね。」
麻里子は社長室に目をやってから、ふと何かに気が付いたようにふふっと笑った。
「どうかしたんですか?」
明穂が不思議そうに尋ねると、麻里子は意味ありげに笑って首を振った。
「タイミング良かったわね。」
青島と同じことを言う麻里子に、明穂ははにかみながらひとり頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!