発端

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発端

ご飯を味わおうと思って食べたことあったかな、と未来(みき)は思いながら、食べることに集中することにした。 全員が同じ思いだったようで、終始、皆が黙々と食べてから、箸を置いた和田が口を開いた。 「参ったな。全部、美味しかった。」 頭を抱える和田に、私も、と未来は言って、涼子(りょうこ)と石原の顔を見た。 すると二人とも次々と頷いていて、和田は明らかにホッとした表情を見せた。 頃合いを見て個室に戻ってきた緒方に、皆の感想を正直に伝えたところ、意外な答えが帰ってきた。 「本来なら皆さんに、ご飯の美味しさが伝われば、それで良かったのですが、試すようなことになってしまって申し訳ありません。」 頭を下げた緒方は、言葉を続けた。 「炊飯器を作っている家電メーカーは沢山ありますが、代表的な2社の最高級品で炊いたご飯と、弊社の炊飯鍋で炊いたご飯をお出ししたんです。ですから全部美味しくて当然です。」 和田は、はぁ、と拍子の抜けた返事をした。 「日本の炊飯器は素晴らしいです。今回それに負けないような炊飯鍋を4分の1の価格で販売すると言うことに、価値を見出してくれたら、というのが願いです。そのために皆さんのお力をお借りしたい。」 緒方の真意が分かり、その意図を理解した未来たちの心に響いた。 「精一杯、努めさせて頂きます。」 緒方に応えるように和田が立ち上がると、未来たちも同じように立ち上がり、一斉に頭を下げていた。 それから未来たちが泊まる部屋を早めに準備したと言われ、レストランを後にしてチェックインを済ませることになった。 未来と涼子は同じ部屋だ。 「次は工場見学か。無理してでも来て良かったよ。ライバルを蹴落とそうというのではなくて、同じ志で良いものを作ろうとしている人たちに対する、敬意が感じられる。」 荷物を整理しながら話す涼子に、未来も頷いた。 「本当ですね。比較広告もおもしろいけど、もっと本質的な物を伝える内容が、いいのかもしれないと思いました。」 「デザインもシンプルな物が良いんだろうな。でも、ご飯が美味しく炊き上がる絵なんて、使い尽くされているだろうし。まぁ、明日までにはもっとヒントが見つかるだろう。」 未来と涼子は、漠然としながらもイメージを掴めたような手応えを感じていた。
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