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第一章 失明と闇
先月、僕は突然に両目の視力を失った。
未だに現実を受け止められない。
もう、
好きな人の笑顔も
綺麗な景色も
美しい文字を見る事さえ出来ない。
自力で食べる事も
歩く事も上手く出来ない。
光を全く感じないが
たまに眩しいと感じたりする。
僕の神経が錯覚しているようだ。
その感覚を感じる度に落ち込んでしまう。
この一ヶ月間は
あれも出来ない、これも出来ないと
出来ない事ばかり考えていた。
何も出来なくなった自分をどんなに蔑んでも
現実は何も変わらなかった。
とことん落ち込むばかり…。
かつての僕はポジティブな方だったが
さすがにこの事故にはお手上げだ。
たぶん、前の僕なら目が見えなくても
こんな事も出来るんだぞと見せつけてやりたい!
とでも考えるんだろう…。
――― そう、
心の奥で必死に叫んでいる言葉がある。
視力を奪われたって
僕らしさまで奪われたくない!
かつての僕の心が
そう言って僕のケツを蹴飛ばす。
わかったよ…。
うるさいなぁ。
かつての僕より頭に入ってくる情報が
少なくなった分、頭に響くようにうるさい。
僕に出来る事を考えてみるから静かにしてくれ!
と、最初は消極的にいくらか前向きになれた。
――― 今の僕に何が出来るだろう…。
そんな気持ちが、教えてくれたのは
目の前の現実を受け止めなければ
前に進められない事。
失明しても夢は見る。
夢の世界は視力を失う前の
美しい景色の中に僕はいる。
夢の世界は素晴らしい。
何も不自由がないんだ。
だから寝る事がとても楽しみで仕方ない。
でも、時間が経つと変わった。
目が覚めると…
いつも夢の世界から帰ってきた僕は
視力がない現実に叩きのめされてしまう。
その内、闇の夢も見るようになった。
夢の内容は選べない。
闇に対する恐怖心が夢になって現れたんだ。
夢は夢で現実ではない。
夢を見る事は、いつしか楽しみではなくなった。
それでも!
それでもいいじゃないか!
視力がなくても、不自由でもいいじゃないか!
だからこそ、見える奴らに見せつけてやるんだ!
と、現実に落ち込む僕に
うるさい言葉達が頭に響く。
何も出来ないのは分かっている。
だから、やれる事があるか考えるから
静かにしてくれ!
視力が無い事は
こんな形で自分を変えようとする。
いや、かつての自分に戻ろうとする。
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