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1章 色恋
夕方のぼやけた人の波。私は一人、その渦へと紛れ込んでいく。
車の運転手もこの時間は視界が悪くて苦手らしい。
それでも、私はこのぼやけた時間が好きだった。他人の渦に入り込んで、自分の輪郭まで、ぼやけて仕舞えばいい。
「ねえ、お姉さん綺麗だね。一緒にちょっと話さない?」
年齢より若く見えるのは、自分でも自覚があった。
三十半ばの未婚の女は、よく、若く見られる。苦労してないからよ…なんて言われるけど、結婚を経験して、離婚してる時点で、彼女たちより苦労と疲労はあの時期半端なかった。
結婚して充実してるはずの人たちに、そんなな言葉言われたくもなかった。
バツ1の私は、子供もいない。
婚活を頑張っていた頃、気に入った人たちに初めはいい感じだったのに、バツ1を伝えると、たちまち逃げていく、男たちも何人も見た。
純粋に再婚相手を求めていたけれど、もう、浅はかな恋愛に傷つくことに嫌気がさした。
本気で好きにならなくても、誰かと付き合えば傷つくのだ。こんな淡白な私だってね。
私はこの先も一人なのだろう。
だから、私は適当な男と泡沫な時間を過ごすのだ。
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