負傷

1/1
前へ
/20ページ
次へ

負傷

(小学校高学年の男子が、女子に口喧嘩で勝てると思うなよ)  私は思いつく限りの悪態を腹の底からぶちまけた。  語彙力が追い付かない上にプライドをズタボロにされた田村は、怒りに任せて手元にあったペンケースを投げつけてきた。  硬いペンケースの角がたまたま私のこめかみの辺りに当たり、ツウッと汗が流れるような感覚が頬を伝った。 「キャーッ! 血が出てる!」  女子の悲鳴を聞き付けて間宮先生が走って来た。  先生は自分のハンカチが汚れるのも構わず、血の流れ出るこめかみをおさえる。  間宮先生の青い顔を見て、私はちょっと罪悪感を覚えた。  保健室で手当てを受けていると、ピンクの部屋着姿のパパが必死に校庭を走ってくるのが見えた。 (私が怪我したって電話で聞いて、着替えるのも忘れて飛んできたんだろうなぁ) 私の心は更に沈んだ。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加