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お遊戯会
お遊戯会の当日、私はどんよりと沈んだ気持ちで保育園に向かった。
パパに見て欲しかった。でもそれを言うとおばあちゃんが露骨に嫌な顔をする。
(この話はしちゃいけないんだ)
私はそう感じ取り、家でお遊戯会の話はしなかった。
お遊戯会の内容は覚えていない。たんたんと自分の役をこなしたんだと思う。
劇が終わり、みんながお土産をもらって嬉しそうに自分の親元に帰っていく。
顔をあげた私は自分の目を疑った。
「……パパ?」
おばあちゃんと並んで立っていたのはパパだった。
しかし、私の知っているパパではなかった。
パパの自慢のくるくるカールの髪の毛は短く刈られ、赤い口紅も白粉もしていない顔はすごく寂しそうに見えた。
まるで赤ずきんちゃんの舞台衣裳を来ているように男性用スーツを着たパパは、大きな体を無理に縮めようとしているみたいだった。
「みゆちゃん、すごく上手だったわ……じゃなくて上手だったよ」
パパはそういって大きな手で私の頭を撫でてくれた。
私は悲しくて悲しくてボロボロと泣いた。
オロオロと私を抱き上げるパパに抱きついて私は泣きじゃくった。
「いつものパパがいい! いつものパパが……」
パパは困ったように笑っていた。
おばあちゃんは黙っていた。
重苦しい空気のまま、私はパパに抱っこされて家に帰った。
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