お遊戯会

1/1
前へ
/20ページ
次へ

お遊戯会

 お遊戯会の当日、私はどんよりと沈んだ気持ちで保育園に向かった。  パパに見て欲しかった。でもそれを言うとおばあちゃんが露骨に嫌な顔をする。 (この話はしちゃいけないんだ)  私はそう感じ取り、家でお遊戯会の話はしなかった。  お遊戯会の内容は覚えていない。たんたんと自分の役をこなしたんだと思う。  劇が終わり、みんながお土産をもらって嬉しそうに自分の親元に帰っていく。  顔をあげた私は自分の目を疑った。 「……パパ?」  おばあちゃんと並んで立っていたのはパパだった。  しかし、私の知っているパパではなかった。  パパの自慢のくるくるカールの髪の毛は短く刈られ、赤い口紅も白粉もしていない顔はすごく寂しそうに見えた。  まるで赤ずきんちゃんの舞台衣裳を来ているように男性用スーツを着たパパは、大きな体を無理に縮めようとしているみたいだった。 「みゆちゃん、すごく上手だったわ……じゃなくて上手だったよ」 パパはそういって大きな手で私の頭を撫でてくれた。  私は悲しくて悲しくてボロボロと泣いた。  オロオロと私を抱き上げるパパに抱きついて私は泣きじゃくった。 「いつものパパがいい! いつものパパが……」 パパは困ったように笑っていた。 おばあちゃんは黙っていた。  重苦しい空気のまま、私はパパに抱っこされて家に帰った。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加