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〇冬香の職場・中(夕)
窓の外に雪がちらついている。
冬香、パソコンの電源を切ると、田中航平(二十七)が声をかけてくる。
田中「これから飲みに行かない?」
冬香「今日ですか?」
田中「ダメかな…じゃ、美味しい中華でも食べに行こうよ」
冬香「ぜひ!」
冬香、満面の笑みで頷く。
〇繁華街(夜)
冬香と田中、中華料理店から出て来る。クリスマスのイルミネーションで彩られた街。
田中「今日は付き合ってくれてありがとう。楽しかったよ」
冬香「私も楽しかったです」
田中「あのさ、篠原さん、今度のクリスマスイブって空いている?」
冬香「え?」
田中「いや、予定無かったらまたメシでもどうかなと思って」
田中、照れたように鼻先を触る。冬香、暫く考え込むが口を開く。
冬香「毎年、うちで友達とクリパするんですけれど、今年は皆、予定があるみたいでやらなくなってしまって」
田中「そっか、それは寂しいね」
冬香「いえ、ずっとそう思っていたけれど、どうやら違ってました」
田中「ん?」
冬香「だって、それって皆、それぞれに心地良い居場所が出来たってことでしょう?」
田中、穏やかに微笑む。
田中「そうだね」
冬香「今、私が寂しくないのは、田中さんのおかげかもしれません」
田中「じゃ、篠原さんのお家、僕がサンタクロースになってお邪魔しちゃっていい?」
冬香「えっ」
田中「冗談だよ。僕が行っても、今みたいに空気凍らせちゃうだけだね、きっと」
田中、自嘲する様に笑い、歩き出す。
冬香、考え込むが、やがて顔を上げる。
冬香「本気にしてもいいですか?」
田中、振り向く。
冬香「来て下さい、家。友達が贈ってくれたすごくいい空気清浄機があるから、部屋、加湿して快適にしておきます。そしたら、空気きっと凍らないですよ」
冬香、微笑む。田中、冬香に近寄り、その手を取る。
田中「そんな事言うと、本当におしかけるけど、いい?」
冬香、はにかんで頷き、田中の手を握り返す。
二人を照らすイルミネーション。
ー終ー
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