第1話 海の底へ

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第1話 海の底へ

「真司…?おい、真司!?」 おかしい。 真司の姿が見当たらない。 俺から少し離れた海面には、彼のサーフボードだけが静かに浮かんでいる。 何もなければ良いのだが。 俺は真司のサーフボードの方へ泳ぎ始めた。 「真司!!おい、真…うわっっ…!」 突然、前から襲いかかって来た特大の波に、俺の身体は飲み込まれた。 くそっ、なんだこれ。ここまで波が高くなる予報は出ていなかったはずだよな。 波というより、渦の中に巻き込まれたような感じだ。 落ち着け落ち着け、大丈夫だ。 自然が相手のスポーツには、こんなことも頻繁に起こる。サーフィン歴10年、今までだって、同じ様な状況に陥った経験は数えきれないほどある。その度にもがき苦しみながらも、海面に繋がる出口を必ず探し出してきた。 高校からの付き合いで、サーフィン仲間でもある真司と一緒に。 「うぐっ………!!!」 しまった。 首が横に飛ばされたかと思うほどの、強い衝撃を感じた。 波の力でその重さを数倍に増した自分のサーフボードが、俺の側頭部に直撃したのだ。 視界がグラグラと揺れる。 だめだ。 このままもし気を失ったら、溺れ死んでしまう。 わかっているはずなのに、頭も手足も、なぜか既に諦めてしまったかのように、動かせない。 まずい、と思いながらも俺の瞼は、重くなっていった。 残り僅かな視野の中、かなり距離があるものの、見慣れたウェットスーツの模様が目に入った。サーフボードから少し離れた海中で、激しい波に揉まれているのは、恐らく真司の姿だ。 真司。 俺は、お前を最後まで助けられなかったな。 ごめんな。 意識を失った俺の身体は、深い海の底へと、静かに沈んでいった。
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