うそつきの理由

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   視線を感じる。  教室の隅、ほんの少し日差しが当たる窓際の机で、俺と聡は他愛もない話をしていた。  少し離れた場所から、俺たちに送られる視線を感じる。  しばらく経って、俺は初めて気が付いたようにそいつの方を見た。 「美咲」  片手を軽く上げてそいつの名前を呼ぶ。  美咲はちょっとばつが悪そうに視線を逸らしたが、何か観念したかのように席を立つと俺たちの方にやって来た。  聡が驚いたように美咲を見て、それから俺を見た。 「何の話してるの?」  俺たちの隣に立った美咲が聞いてきた。 「んん、何ってことない話」  俺は、そうだよなって言うように聡を見て、相槌を促した。 「うん。今の数学、なんか全然よく分からなかったなって」  聡は両手を上に向けて肩を竦めると、おどけるようにそう言った。そんな聡を見て、美咲が自分の口に右手のこぶしを持って行くと、首をかしげて微笑んだ。  ああ、可愛いなあ。そう思った。  小さな顔に、くるっとした大きな瞳と長い睫毛。ほんのりピンク色の唇。  この可愛い顔を聡に向けて欲しくなった。  言うのは癪だが、聡は切れ長の瞳にすっきりと整った顔立ちで、スタイルもいい。さらに適度なユーモアもあり、女子にかなり人気がある。 「美咲は余裕だろうけど」  からかうように聡が言った。 「そんなことないよお」  いつもより少し甲高い、甘えたような声が響くと同時に、次の授業開始のベルが鳴った。  
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