5人が本棚に入れています
本棚に追加
電話の向こうは、無音だった。おれが何も喋らずにいると「どうしたの?」と、彼女の声が聞こえてきた。とくん、と心地よく、胸が跳ねる。
今から帰るよ、と言うと、それ、さっきも言ったじゃん、と、おかしそうにクスクスと笑う。手元を見た。暗闇の中、きらりと、行く先を照らすように、左手の薬指が、やさしく光る。
「――早希、愛してる」
照れ臭そうに笑ったあと、泣き出す彼女の声が聞こえてきた。おれは、ふっと、笑みをこぼした。
最初のコメントを投稿しよう!