1人が本棚に入れています
本棚に追加
車に戻ってきた時、空は明るさを帯びてきていて紺色に淡い赤を交えていた。トンネルで水中に沈んだ後、土煙が混じり始めて明かりがあっても何も見えなくなってしまうんじゃと思ってたところ一瞬にして全ての像は消滅してしまった。先輩曰く、注水されて犠牲者が皆亡くなったからそれで事件は全て終わりだから、らしい。帰りの車中はまた一味違うのは空模様が違うからか深海を経験をした僕が変わったからなのだろうか。
「何故今でも過去の事件の霊が出現するんですか?」
「何なんだろうなあれは。意思を感じるものじゃないし、死者本人はとうに供養されてるよ」
行きでも通った祠を横切る。きっとあれが。
「事象の幽霊は土地に起因するのかどうか…….いやそれはともかく俺の憶測だがああいったものが生じるのは巻き込みすぎたからじゃないかな」
「巻き込む?」
「第一に大勢の被害者本人、それからそれを生み出した事件前の国や社会の意志、事件後にも注水を許可した遺族の無念だったり責任者が自殺してしまったりと」
大量の念が渦を巻き、形を持ってしまう。
「それが大量死をトリガーとして、まぁこの土地が霊的に元々何かあったのかもしれないし要調査って感じかな」
一年に一度夜になるたび再生されているのだろうか。僕たちは暫く無言でいた。先輩は何を考えているんだろうと思うと「で、どうだったあれは」と聞かれた。
「普段霊に影響されていると、干渉されないのはありがたいです」
何故ならただでさえあなたのせいで疲れたというか……。
「もしかしたら忘れてほしくないのかもしれないな、でもあるだけの過去をどう受け取るかは今を生きている者だけ次第だ」
忘れてほしくない、か。事件が産んだ悲しみはそんなことしなくても既にたくさんのことを膨大な人間に刻み込んだに違いない。
車を走らせていると今日初めての太陽の光線を受ける。潜水艦が浮上した。僕たちは確かに地上で、光を浴びて、生きているんだ。
最初のコメントを投稿しよう!