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第一章 婚約破棄は突然に
むかし、むかしで始まるお伽話。映画の中で白雪姫は歌っていた、いつか王子様が私を見つけ出してくれると――
やがて大人になった少女達は悟るだろう。いつか私にもと待っていたって、王子様など一生現れやしないということを。現実世界で幸せになりたければ、自分自身で王子様を探し出さなければならないことを。そして、たとえ王子様なんか見つからなくても、自分の幸せは自分自身で掴み取れば良いだけだと悟るだろう。
むかし、むかしで始まるお伽話は、甘い夢物語でかしなかった。
勤務先の上司から突然食事に誘われて私、赤嶺真紀子は驚いた。そして、指示された場所を知って更に驚愕した。そこは二十代後半の一般的なOLには敷居が高過ぎる、老舗の超高級料亭だったからだ。
「ケチな部長がこんな超高級店に呼び出すなんて、絶対にあり得ない。とんでもないことを押し付けられなければ良いけど」
これは単なる食事会ではない。この誘いの裏には、何かとんでもないことが待ち受けているかもしれない……そんな疑問と不安で身体が震え、胃の辺りがキュッと締め付けられるような感覚になった。
「よっしゃあ!」
一発気合いを入れて、料亭の門をくぐり抜け店内に入る。笑顔で出迎えてくれた女将らしき女性に名前を告げると、長い廊下の一番奥にある個室に案内された。廊下を歩きながら庭を見やると、獅子落としが緊張した空気を裂くように大きな音を立てた。
私の嫌な予感は当たっていたのだろうか? 通された個室には既に先客が待っていた。それも、予想だにしなかった人物だ。
「忙しいところ、時間を作ってもらい申し訳なかったね」
先ずは直属の上司である金子部長が、会食の主旨を説明しようと口を開いた。だがそんなことよりも、隣に鎮座している多賀常務の存在が気になって仕方がなかった。
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