嘘の理由

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空美視点 ―――・・・もうここにいて、一週間が経つのかな。 空美が溜め息をついている場所は彼氏である龍の家で、一週間もの間、外に一歩も出ていない。  手錠をかけられていたり、鍵で閉じ込められているわけではないが、もし出れば何をされるのか分からない軟禁状態だった。  助けを呼ぼうとも思ったのだがスマートフォンは当然のように取り上げられているし、声を出して龍に気付かれてしまうとそれこそ事件が起きそうだった。 ―――もう嫌だよ、こんな生活。 生きるのに必要なものは与えてもらっているがそれだけだ。 人権などなくただ生き続けることができるというだけ。  だがそれも今のところはというだけで、今後どうなるのかは全く分からない。 もしかすると本格的に監禁される可能性もあるし、殺されるようなことがあるのかもしれない。  そう思うと怖くて震えるばかりで逃げ出そうという気力も沸かないのだ。 ―――友作くんの告白を受け入れていたら、こんなことにはならなかったのかな・・・。 ただその場合は友作に間違いなく迷惑をかけてしまう。 そう思っていると激しい音楽が鳴り響き身体が震えた。 見れば龍の携帯に着信があったようだ。 「リーダー!? 久しぶりじゃないっすかぁ!」 龍は仲間とよく電話をするが明らかに普段とテンションが違う。  「やっと戻ってきてくれる気になりましたか? ・・・え、違う? 俺の家? 今から俺の家に来るんすか?」 その言葉に心臓が跳ねる。 龍だけでも嫌なのに、これ以上ヤンキー仲間が増えられるなんてゾッとした。 だがどうやら龍もそれに乗り気ではないようだ。 「あー、別に構いませんが・・・。 ちょっと家が混み合っているんで、しばらく時間置いてからでもいいっすか?」 もっともリーダーと呼ばれる人に断ることはできないのか、どうやらここへ来ることになったようだ。  もしかしたら助けてくれるのかもしれない、そのような期待はヤンキーのリーダーという肩書で消えている。 「了解です。 それじゃあ、準備ができたら連絡します!」 何の話をしているのかサッパリだった。 だが今通話していた相手がこの家へ来るのは確かなようだ。 龍は急いで部屋の掃除をし始める。 ―――助けを求めるなら今がチャンスだったのかな・・・。 ―――でも相手も、怖い人だったら・・・。 そう考えていると突然、ドアの方から凄まじい音が響く。 ドアを開けるとか、激しくノックをするだとかそのようなレベルではなく、明らかな破壊音だ。  ドアノブは変形し木製のドアが音を立てて倒れていく。 「リーダー!? 何してくれてんすか!!」 土埃の向こうから現れたのは同じクラスの友作だった。 ―――友作くんがどうしてここに? ―――もしかして助けてに来てくれたの? ―――でも今、リーダーって言っていたような・・・。 友作は怖い顔をして部屋の中へ入ってくる。 部屋の中を確認し空美と目が合ったがすぐにそらした。 友作のあんな怒った顔は初めてで、学校の時の優しそうな雰囲気は欠片もなかった。  「空美さんを放してもらおうか」 「どうしてリーダーがコイツの名前を知っているんすか!?」 「俺がヤンキーを止めたのは空美さんのためだからだよ!」 ―――ッ・・・。 その衝撃的な事実に空美は胸を打たれた。 彼氏の龍は声を低くして言う。 「・・・リーダー相手でも、コイツは渡せません」 「ほう? 俺相手にやるということでいいんだな」 二人の殴り合いが始まった。 いや、殴り合いというにはあまりに一方的な展開だった。 今はヤンキーから離れているようだったが友作はヤンキーの元リーダーだったため実力の次元が違う。  必死に殴りかかろうとする龍をかわしてワンパンでKOした後、友作は隅にいる空美に近寄ってきた。 「空美さん、大丈夫?」 安否を確認するためなのか空美に触れようとした。 だが反射的にビクリとしてしまう。 「・・・怖い?」 「・・・ううん」 「ごめん。 もう話しかけないでって言われたのに」 力なくそう言う友作に強く否定した。 「その言葉は嘘なの!」 「嘘?」 「こちらこそ嘘をついてごめんね。 友作くんには心配をかけたくなくて、自分の気持ちに嘘をついた」 「じゃあ・・・」 「本当はもっとたくさん話したかった。 これからもずっと一緒にいたかった!」 泣きながらそう言うとあやすように頭を撫でられた。 「・・・ずっと一人で抱え込んでいたんだな。 もう大丈夫だから。 俺がいる」 「助けに来てくれてありがとう」 空美は友作の手を取りこの家を後にした。 そして二人はクリスマスを共にすることになった。                               -END-
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