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嘘の理由
高校生の友作(ユウサク)は元ヤンキーだった。 だがそれも今は昔の話で、一年前に更生し自ら卒業した。
―――・・・来てくれるのかな、空美さん。
その理由は同じクラスの空美(クミ)という女子に恋をしたからだ。 好きな人と向き合うために真面目な男になろうと思った。
―――来てくれるのか・・・?
十二月に入ったばかりで、今月はクリスマスという恋人たちにとってのビッグイベントがある。 それまでに彼女と付き合いその日を迎えたかった。
だからモタモタしてはいられず、空美に告白をしようと思ったのだ。
―――この一年間、ずっと空美さんにアプローチを続けたんだ。
―――流石に俺の気持ちには気付いているはず。
―――空美さんは俺が近付いても、嫌な素振りは一切見せなかった。
―――というより、俺に見せてくれた空美さんのあの笑顔は本物だと信じたい。
―――・・・自信はないけど、手応えはある。
―――それに待ち合わせによく使われる場所に呼び出したから、流石にその意味を察しているだろう。
休日のため、周りでは多くのカップルが楽しそうに笑っている。 待ち合わせ時間が迫る度に心臓の音が少しずつ大きくなっていく。 19時50分。
何度も見た時計台の針は指定した時間まで残り十分であると告げていた。 学校で呼び出さなかった理由は噂されるのが嫌だったからだ。
それから一分ごとに刻んだ針を見て三回、手に持っているスマートフォンがブルリと震えた。
―――・・・龍からか。
残念ながら液晶に表示された名前は空美ではなく、ヤンキー仲間の後輩で龍(リュウ)だった。 友作はもうヤンキーではないが仲間と連絡を交わしているのは繋がりを完全に断ったわけではないためだ。
龍から届いたメッセージにはこう書かれていた。
『友作先輩! 戻ってきてくださいよ、俺たちのところへ!』
何度も見たその言葉に溜め息をつきながら指を動かす。
『だから俺はもう戻らないって』
『好きな女のためにヤンキーを止めたんでしょう? そんなの勿体ないですって! 別にヤンキーは止めなくてもいいじゃないですか!』
龍はヤンキーの頃一番仲よくしていた後輩だった。 何を言われても今更戻る気などない。 しばらく龍と連絡を交わしていると空美がやってきた。
「遅れてごめんね!」
「空美さん! いや、大丈夫。 俺も今来たところだから」
龍との連絡を止めスマートフォンをしまう。
「・・・えっと、話って?」
空美が自ら話を振ってきたが、待ち合わせ場所は外で十二月ということもあり風がとても冷たい。
場所を移してもよかったが、本題を伝えるのに時間はかからないため周りにはカップルが多いという雰囲気を重視し、そのまま告白をすることにした。
「空美さんのことが好きです! 俺でよかったら付き合ってください!」
深く腰を折り片手を差し出す。 学校では自ら話しに行き、連絡先を交換した友達というくらいにはなっている。 それを彼女はどう捉えたのかは分からない。 手を伸ばしたまま空美の返事を待った。
だが手を握られることはなく、その代わりに空美は突然泣き出してしまう。
「・・・え、どうしたの?」
「ううん」
「告白、そんなに嫌だった?」
「ちがッ、違うの!」
「じゃあ・・・」
『違う』という言葉に少し期待をしてしまったが、空美は静かに横に首を振っていた。
「ごめんなさい。 私には彼氏がいるの」
「ッ・・・」
それは聞きたかったが聞けなかったことだ。 彼氏がいれば自分はそこで諦めてしまう。 もしそうだったとしても、告白した上で断られた方が諦めがつく。
ただそうは思っていたが、改めて彼氏がいると聞くのは心が裂けるように辛かった。
「それって、誰なのか聞いてもいい・・・?」
「他校の人なの。 だから言っても分からないと思う」
「そっか・・・。 そうだよな、そりゃあ彼氏くらいいるよな・・・」
「・・・うん、ごめんね」
未だに彼女は涙を流している。 振るのが申し訳なくて涙を流しているのだろうか。
「えっと、じゃあ、これからは・・・」
「・・・もう私には話しかけないでほしいんだ」
「・・・やっぱり迷惑だった?」
そう聞くと空美は静かに頷いた。
「・・・そっか、分かった。 気持ちが伝えられただけでもよかった」
空美が切なそうに俯いたその時、彼女の携帯が鳴った。 身体を震わせ驚いたのに何事かと思ったが、次の言葉を聞き納得した。
「・・・ごめん、彼氏からだ。 私、もう行かなきゃ」
「うん。 今日は来てくれてありがとう。 気を付けて帰って」
「ありがとう。 ・・・そして、ごめんね」
空美は携帯を握り締め小走りで去っていった。 彼氏がいるというのに他の男と会っていて罪悪感を感じたのかもしれない。
友作だけが取り残されたが、振られたショックよりも自分の気持ちを伝えられたことに満足していた。 彼氏が既にいるのなら割り切ることができる。
―――・・・にしても、空美さんのあの涙。
―――涙を流していた理由は一体何だろう?
ただその涙の理由だけが気になっていた。
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