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空美視点
寒空の下ではあるが、震える身体は寒さのせいだけではない。 モニターに映る名前を見ると眩暈がしそうになる。 それでも3コールまでに電話に出たのはそうしなければならないからだ。
涙を擦り電話を取る。
「・・・もしもし?」
『お前今どこにいる?』
名目上の彼氏の第一声はこれだった。 “別にどこでもいいじゃない” そのような言葉を飲み込んで続けた。
「外、だけど」
すすり泣くのを我慢し平静を装った。
『早く帰ってこい。 17時以降は出歩くなって言ったよな?』
「・・・うん、ごめん。 すぐにそっちへ行くから」
『早く来いよ』
走って彼氏の家へと向かった。
―――友作くんから告白された。
―――・・・とても嬉しかった。
―――この一年間ずっと私に話しかけてくれて、優しく接してくれて気を遣ってくれて。
―――元ヤンキーだと知っていたから少し怖いなって思ったけど、話してみたら全然怖くなかった。
―――・・・だけど振っちゃったから、楽しく笑い合える日はもう終わってしまったんだ。
元ヤンキーであるのならもしかしたら助けてくれるかもしれないと考えたこともある。
だがそれはあくまで空美の願望で、面倒事には関与しないといったスタンスの持ち主だった場合、より酷い状況になる可能性もあった。
―――それに、巻き込みたくない・・・。
足取りが重い中彼氏の家へ到着していた。 持たされた合鍵を使い中へと入る。
「・・・ただいま」
「誰と会ってきた? 男か?」
帰ってきて早々にされるのは浮気のチェックだ。
「・・・別に、誰とも会っていないから」
「浮気していねぇよな?」
「浮気なんてしていない」
「ふーん・・・」
空美はマフラーを取った。 マフラーの下には青い痣が何ヶ所にも渡って付いていた。
―――・・・友作くんには、気付かれていないよね。
門限を破ったことで傷が増えることは覚悟していたが、どうやらテレビを見ていて機嫌がいいのか大丈夫そうだった。 何がそんなに面白いのだろう。
不機嫌になるとテレビにリモコンを投げ壊してしまうためそれは三台目、そんな恐怖から空美は楽しくテレビを見ることすらできないというのに。
―――・・・どうしてこうなったんだろう。
―――友作くんと楽しく話す時間は、私にとってとても幸せな時間だったのに。
もちろん友作にはこのことを話していない。 彼氏は他校のため学校内では友作と話してもバレることはなかった。
“他の男と話したりしていないよな?”という質問に“していない”と答えているのを信じていてくれていた。 だが先日正門前で友作と話しているところを彼氏に見られてしまったのだ。
―――でも遠くからだったから、友作くんの顔までは見られなかった。
―――それだけが救いかな。
―――友作くんが目を付けられることはないし。
友作と話しているところを見た彼氏に殴られたことは言うまでもないことで『もう男とは絶対に関わるな』と忠告してきた。 だから先程友作に『もう話しかけないでほしい』と言うしかなかった。
友作は元ヤンキーと聞いているが、彼氏は現ヤンキーで暴力的。 友作に本気で嫌われるのだけは嫌だった。
―――本当はもっと友作くんとお話がしたかった。
―――・・・だけど私は、自分の気持ちに嘘をついたんだ。
嘘をついてまで彼氏に従った。 彼氏はヤンキーである上にヤクザの息子だったからだ。
「空美。 浮気をしたらどうなるのか分かってんだろうなぁ?」
「・・・だから、しないって」
「信用できねぇな」
彼氏は少しずつ距離を詰めてくる。 怖くなり空美は後退った。
―――最初のうちは優しかった。
―――だけど私を両親に紹介してくれた途端、急に態度が変わった。
親がヤクザだと知れば逃げられないと思ったのだろう。 それからはDVと束縛が絶えなくなった。
『逃げ出したらお前の家族、みんな潰してやるからな』
そう脅されたのだ。 怖くて誰にも相談できていない。
―――私はいつまで耐えていたらいいんだろう。
―――・・・誰か、助けてよ。
空美の心は既に壊れかけていた。
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