水鏡に照らされた嘘

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 十二月のある日、葬儀会館内。  受付で仁科優華はひっきりなしに来る弔問客の受付をしていた。  地元に帰って来たのは十四年ぶりだが、あまり懐かしい思い出はない。むしろ終わったら一刻も早く今の住居へ戻りたい。そう思いながら接客しているせいか、ここにきている人の半分くらいは知り合いなのだが、不思議と初めて会う人のように思えてしまっている。  葬儀が始まる寸前ということもあり、来客のピークは過ぎていたが、故人の仕事柄か、まだまだ客足は途絶えなかった。  一息つこうと後ろに置いてあったペットボトルのお茶を素早く飲んだときだった。 「お前、優華だったのか。てっきり式場のスタッフかと思ったよ」  冷や水を浴びせるような言葉に振り向くと、そこにいたのはフォーマルスーツを着た青年だった。 「あんたは」  その続きの言葉が出なかった。  今、優華の目の前にいる青年は昔とほとんど変わらない。声もあのときから低くなっているが、彼のままだ。ずっと聞いていたい。 少しだけ懐かしんだが、すぐに冷ややかなまなざしに切り替えた。 (もう、騙されたくない)  無意識に歯を食いしばり、右手を握りしめた。彼女の様子に気づいたのか、青年は苦い表情になる。 (なんで、なんで今更(・・)そんな表情するの? あのときはこっちを見向きもしてくれなかったのに!!)  そんな感情が溢れ出そうだった。  ここが優華の祖母、楓のお通夜でなければ確実に彼を罵っていただろう。それくらいに彼に対する憎しみがあった。  優華が目の前の青年、佐々木康太と知り合ったのは同じ小学校にあがるより前、楓が開いていた小さな学習塾だった。  康太はまとめ役を引き受けることが多く、よく地域の子供たちだけの行事でも彼が率先して先頭に立っていた。  一方、優華はひたすら本を読んでいる大人しい子供だった。もちろん友だちと呼べる存在もいたのだが、彼女たちと遊ぶよりも一人でいる時間の方が好きだった彼女は小学校でもやや浮いている存在だった。  対照的だったけれど、楓の学習塾だけは一緒に過ごす唯一の時間だった。  そんな時間もあっという間に終わった。  中学校にあがったあとには学習塾に通わなくなった康太は、クラスや部活の仲間たちとよく喋っていた。友だちがほんのわずかしかいなかった優華は小学校以上に孤独を極めていた。  その中学校で事件は起こった。  入学して最初の試験はそんなに難しくなかったので、満点とれても受験に有利になれるわけではない。それに気づいていた優華は目立ちたくないという一心から、ある程度手を抜いていた。  しかし、二年生の冬の試験でも手を抜いたはずの優華なのに、それさえも番狂わせとなってしまった。  いつも首席をとっているのは違う小学校からあがってきた男子で、康太よりもにぎやかな、教員でさえも手を焼くソイツは自分が一番にならないと気が済まない性格をしていた。  そんな優華が一位で、ソイツが二位。  答案がすべて返却された翌日、嫌な予感を抱きながら登校すると、下駄箱の上靴は切り裂かれており、優華の机は汚されていた。しょうがないので行った保健室では、前日までほとんど利用者がいなかったのに彼らのたまり場になっており、途方に暮れた。 担任にも相談したが、すでに彼らから吹き込まれたのか、優華が悪いように言われたので耐えるしかなかった。その後も嫌がらせは続き、あるときは体操服が着られない状態で見つかったりもした。  そんな中、康太はただ黙ってみていた。いじめにも積極的にかかわらなかったけども、それを止めてくれることもなかった。どうにかならないのかと祖母を通じて彼に相談したときは『今度見つけたら止めてやるよ』と言ってくれたが、結局なにも変わらなかった。  当然、いじめが始まってからすぐに母親が中学校の校長先生に掛け合ってくれていたが、取り付く島もなかった。  いじめが数ヶ月続いたあと、彼が誕生日プレゼントとしてくれたはずの可愛らしい栞を彼自身の手で壊されてしまった。それを見せつけられた優華は当日の夜、体調を崩し、自殺未遂まで起こしてしまう。  そんな彼女をもうこの地に留まらせておくわけにはいかないと、母親と祖母は優華を県外の親戚の家に避難させてくれた。 「お疲れ様、優華」  康太と会ってしまったという苦い出来事もあったけど、無事に通夜が終わった。  寝ずの番は叔母とその旦那さんが引き受けてくれるそうで、母親と優華は一時帰宅することにした。 「お母さんこそお疲れ様」  反対に母親を労いながら、優華は軽めのボストンバッグを持って車を降りる。  この葬儀は元の学校の近くで行われているから、最初は帰るのをためらった優華だったが、さすがに大切な祖母だったので、一泊二日の予定で戻ることを決めていたのだ。  ありがとうと言い、郵便ポストの中をのぞいた百合は優華を呼び止める。 「優華あてに手紙が来ているよ」  そんなはずはない。  優華はそう思った。  すでに住民票は移してるんだから、郵便がこちらに届くはずなんてないのに。  おもわず驚いてその鍵を落としてしまった。慌ててその鍵を拾って百合の元へ行くと、白い封筒を差し出された。  そこには差出人の名前も住所もない、ただ『仁科優華さんへ』とだけ書かれていたものだった。そんな不審な手紙を子供じゃない優華はすぐに捨ててしまうこともできたが、手書きで書かれたそれを破り捨てることはできなかった。  優華の部屋はそのまま残されていた。ベッドに腰かけ、ペーパーナイフで封を開ける。  取り出した便箋の一文字目で差出人は康太だとわかった。丁寧だけれども、どこか慌てた様子の字。どうやら葬儀の参列後にこの手紙を書いてくれたみたいだった。 『楓さんのこと改めてお悔やみ申し上げます。まだお元気そうだったのに、突然のことでとても残念です。さぞかし百合さんや優華さんも悔しい思いだったことでしょう。  まず、先ほどは葬儀場であんな発言をして申し訳ありませんでした。優華さんの雰囲気がとても変わっていて、俺は驚きました。これを書きながら、あいつらが今の優華さんのことを見たらどんなことを言うのか少し想像してしまいました。(でも、今の姿もあいつらに見せたくはないかな)  そんな話は置いておいて、俺は謝らなければならないことがあります。  今だから言えることですが、優華さんのことが頭が良すぎて大嫌いでした。楓さんの学習塾でも小学生のくせして手伝っているという事実が受け入れられませんでした。だから中学校でのいじめのとき、楓さんからも相談を受けていたのにもかかわらず、見て見ぬふりをしました。優華さんのことが嫌いだったから、助けるつもりはなかったんだと思います。  当然ですが、転校した直後に母親にこっぴどく叱られました。楓さんから相談受けていたんだろうってね。楓さんがショックで寝込んしまったとも。図星だったからいてもたってもいられなかったけれど、もうお前との縁は切れたんだ、と突きつけられたおかげで目が覚めました。  べつに俺を許してもらわなくても結構です。それだけひどかったと自覚があるので、嫌われても当然です。  では、さようなら』  その手紙に目を通した優華は読んで笑ってしまった。いつだって学習塾でもどこでも康太は明るく構ってくれていたから、自分のことを嫌いじゃないと勝手に思い込んでいただけだったのか。  寂しかったが、その手紙は中学時代の康太の行動を裏付けるものだった。  もう独りよがりで終わった思い出は捨てよう。ごめんと呟いて便箋を封筒にしまった。  窓の外を見ると、家に帰ってきたときには地平線近くだった月がだいぶ昇っていた。ずいぶんと時間が経っていたようだ。  のろのろと立ち上がり居間に戻る。手紙を最初に見つけたときとは違って無表情の娘を見た母親はそっと優華に尋ねる。 「やっぱり康太君からだった?」 「うん、私のことが嫌いだったって」  母親は夕食の準備をしてくれていたのだろう。どこかで買ってきたお弁当だったが、箱の隣にちょこんと置かれたお椀から湯気が立っていた。  わけわからないよね、なんて笑って言っても母親は驚かないばかりか、康太君ねぇとしみじみ呟いている。なにか優華の知らないところであったのだろうか。  どうしたの?と尋ねると、ゆっくりと息を吐きながら百合は独り言のように呟く。 「あのあとね、今度は康太君がいじめにあったの」  優華はその言葉に驚いて辛うじてどういうこと?と乾いた声で尋ねる。  それだけ母親の言葉は衝撃的なものだったのだ。 「小学校から児童会長してたし、人気もあったじゃない。なんでいじめに?」  優華の問いかけに百合は微笑むだけで答えない。お吸い物を一口飲んだあと、今から言う話は優華はなにも悪くない。それを念頭にして聞いてねと前置きしてから話しはじめた。 「すべてがあとでわかったことなんだけれど、康太君はね、小学校から英会話クラブに通っていたんだ。そこに通っていた同学年の女の子が康太君に恋しちゃったみたいなの。で、中学校で一緒になったみたいで、付きまとったらしいの。でも、康太君はその女の子を相手にしなかった。それが癪に障ったのか、女の子は同じ出身のあの男たちに声をかけて、康太君を力で叩きのめしたらしいの。運動はさっぱりな彼だから、最初にやられて以来、奴らの奴隷みたいにされちゃったらしいのよね。  優華のこと、本当はいろいろしたかったらしいんだけれど、そんな状況だったから言えなかったみたいでね。優華やお母さんとの約束を守れないって、お母さんに必死に謝っている姿がかわいそうだった。  優華が転校したあと、今度はあの子がターゲットにされたのよ。どうやらお母さんの学習塾のことがばれて。しかも、うちとの家族ぐるみで遊んでいたころの写真をあの子、大切に持っていたみたいで、それに気づいたガキどもが同じことを彼にしたの。優華のことがあったせいか、だれにも言っていなかった。でも、あまりに耐えきれなかったのか、彼も学校で自殺未遂を起こした。教育委員会の方が中学校に来ていた日だったからよかったものの、あと一歩遅ければ、というところだったのよ。ようやく、それで康太君と優華のいじめのことが明らかになったの。すべてが終わった後にお偉方が何度も謝罪に来たけれど、もうそっとしておいてくれって私が言って、優華にはあえて会わせなかったの」  あいつら本人やそのクソ親は謝罪にすら来ないわねと、普段はおっとりとした性格ながらも苛烈な言葉も吐く母親。前半部分に優華は呆然としたが、母親が嘘をつくはずがない。きっとそれが事実なのだろう。  けれども、それはそれで別の疑問が湧く。先ほど優華が読んだあの手紙。あれはなんだったんだろうか。  娘の異変に気づいた百合は手紙を見せてと手をだす。  渡された手紙を読んだ彼女はふふふと笑う。嘲りの雰囲気はなく、優しさだけがあった。 「優華に気を使ったんじゃないかしら。彼は今でもときどき、お母さんのところへ来て優華の話をしていたのよ」  どういうことなのだろうか。首をかしげた優華に男ってね、カッコ悪いところをほれている女には見せたくないのよと笑いながら答えた。  翌日の葬儀後になんとなく学習塾の跡地に優華は向かった。  自分は自分のことで精いっぱいで、康太のことに気づけなかった。それは果たして正しかったのだろうか。  彼が自分のことから目を背けたんじゃなくて、彼から目を背けていたんじゃないのか。ここに来ればその答えが見つかるかもしれないと思った優華はそこに座っていた人に驚いた。  祖母と三人でよく日向ぼっこしていた縁側に座っている姿はやっぱり大人だった。茶色に髪を染めていて、あのころとは違ってちょっとだけだが少し筋肉もついているようだった。  このまま意地悪で帰ってもいいかと思ったけれど、それはそれで負けた気がしてならない。意を決して康太に声をかけた。 「久しぶり」  優華の声に幻を聞いたような感じであたりを見回す彼は昔のままだ。あのころもよく迷子になっている子がいないか見回していたっけと思いだす。  自分の目の前にいることに気づいた康太は破顔した。ううん、と言ったその声はあのころよりも低くなったけれど、昨日、久しぶりに聞いたときと同じで心地よかった。  優華と康太。  あの事件が起こる前――楓の学習塾時代と二人の距離は変わっていないような気がした。 「手紙なんだけれど。まずは、ありがとう」  優華の言葉に気にしないでと笑う康太。どこかその笑みには苦さが含まれていた。  母親から聞いたこと、手紙の内容、そして康太が優華に会いたがった理由。  今なら聞ける。今しか聞けない。  話してくれるだろうと思って、じっと康太の瞳を見つめる。 「でもさ、なんで嘘を」 「それは……いくら『個人的な理由』とはいってもあのとき、助けを求める声を無視したことが申し訳なかったし、そもそも助ける力がなかった自分自身が情けなかったからさ。昨日会ったときに握りしめていただろ? 恨んでいるのがよくわかったから、今後、一切心配させなくて済むと思った」  康太の告白に優華はため息をついた。  そういうことだったのか。  彼にとっては一つの贖罪なのだろう。でも、逆にあの手紙がきっかけとなってしっかりと考えだしてしまったんだから、彼からすると言葉通りでしかないのだろうが、ずるいと思ってしまった。  そのあと母親から聞いたことを彼自身の口から聞いたあと、彼の左手に恐る恐る触れる。彼の左手首には今も消えない傷がある。優華の行動に驚いた康太だったが、それでも手をふり払わなかった。  私だけ逃げてごめん。  あのとき、自分が逃げなければきっと康太がいじめられることもなかったはず。  彼女の言葉にゆっくりと首を横に振って、空いている手で優華の左頬を撫でながる。 「少なくとも俺は優華さんが逃げたなんて思っていない。こうやって、またきちんと喋れたんだから」  冬の夕暮れは早い。  17時に近くなるとあたりはすでに真っ暗で、優華が乗る電車の時間が迫っていた。康太が送ってくれるようで、車の中で互いに今のことを話した。  優華は義実家から近い銀行の営業職に就いていること、あのときと比べたらまわりとなじめ、友だちもできていていることを言うと、少し羨ましそうな顔をされてしまった。  反対に康太は近くの大学で微粒子について研究をしているらしく、化学が苦手な優華でも名前を聞いたことのあるような有名な人と近くで話したこともあるらしい。  駅までの道のりはあっという間で、無機質の白い建物の中はひんやりとしていた。  人気のない改札口で荷物を渡すときにありがとうと康太が渡すと、こちらこそありがとうと受け取りながら微笑む。  優華は渡された荷物に少しだけ残っている温もりをギュッと握りしめ、改札の中に入ろうとしたが、あることを思い立ち、立ち止まって振り返る。  康太も同じことを考えていたのか、互いに見つめあったまま時間が過ぎていく。  しばらく経って、すっと深呼吸をした優華が切りだした。 「もし、よければ、私のことを優華って呼んでほしいな、昔みたいにさ。あ、あと、ときどき康太君に連絡してもいいかな?」  彼女の問いかけに目を見開き、頷く康太。そして、彼もゆっくりと、しかし、優華に届くようにはっきりと告げる。 「もちろんだ。俺こそ、康太って呼んでほしい、今度こそ」  彼の叫びに驚いた優華だったが、彼女もうんと大きく頷く。ちょうどそのとき電車が来るアナウンスが入ってしまい、もう行かないとと手をふって慌てて階段を下りていく優華。  扉が閉まる寸前に駆けこんだ優華は、街並みが見える位置に腰を下ろした。 「帰郷したのも悪くなかったな」  最初はここに戻るのがただ苦痛でしかなかったけど、彼の本当の想いを知ることができた。たったそれだけ。  でも、自分にとっては大きな一歩だったと理解している。  乗り換えの駅に着いたとき、康太と連絡先を交換していないことに気づいた優華だったが、もう次の電車の時間が迫っていて戻ることは無理だとあきらめることにした。  もしきっとどこかで会えるのならば、そのときに聞こう。  母親経由で聞いてもらうという手段も残ってはいるけれど、なぜかその方法をとろうとは思わなかった。  あのとき。  事件は起こった。自分がとるべきこと、自分がとってしまった行動は間違っていなかったと今でも思う。だが、一つだけ、康太を信じなかったことは悔やんだ。それがなければ、私も康太も――  今更悔やんでも悔やみきれない思いを抱きながらも、こうして再び会えただけでもよしとしなければ、報われないだろう。  きっと。  家から最寄りの駅に着いたあとは人通りがほとんどない道をぼちぼち歩いて家に帰った。  だれもいない部屋に入って鞄を片付けようとしたら、サイドポケットから一枚のメッセージカードが出てきた。 『仁科優華さんへ  これを見ているときには、おそらく自宅に着いているでしょう。そして、俺は優華さんに連絡先を教えていないときでしょう。そう思い、裏に書いておきましたので、よければ連絡してもらえると嬉しいです。                     佐々木康太』  座布団一枚とられた感じだった。 「康太は気が利くんだったね」  だれもいない空間に向かってありがとうと優華は呟くと裏面に書かれている番号に電話した。 『もしもし』  彼のスマホには登録されていないこの番号なのに、優華がかけてくれるだろうと信じてくれていたのだろうか。すぐに電話に出た康太の声になんでと泣いてしまうところだった。 「メッセージカード、入れてくれてありがとう。あれがなければ」 『ううん。気にしないで。賭けだったから』  彼も言葉が少なく、どちらもなにも言えないまま時間だけが流れていく。 『なあ、そっちは晴れているかな?』  やっと聞こえてきた質問にどういった意味なのだろうかと思ったが、見たままの答えを返した。 「晴れているよ」 『じゃあさ、月は見える?』 「うん、見えてる」  やっぱり康太がする質問の意味がわからなかった。  なにが言いたいのだろうか。  けれど、電話の向こうではほっとしたような口調になっている。そして、また無言のまましばらく時間が流れる。 『そう、それはよかったよ。“今日の月は一段と綺麗だね”』  向こう口で大きく息を吸って吐き出された言葉は、優華にも予想外の言葉だった。彼女がその言葉を一拍遅れて理解すると同時に、言った本人である康太も慌てていた。  もう恥ずかしいよね。  からからと笑う声が聞こえてきた。 『嫌いって思われていたのは仕方ないし、むしろそうされて当然だけれど、会って、きちんと話せたから許されたなんておかしいよね。しかも、まだ数時間も経っていないのに好きだっていうのはおこがましいよね。ごめん、今のは忘れてくれないかな?』  彼が畳みかけようとするのを優華は待ってと慌てる。  そんなことを自分は言いたいんじゃない。むしろ、それは私のセリフなのにと電話に必死にしがみつく。 「ううん。そんなことない――というか、私も康太のことが好きです」  ずっと好きだった。  それさえきちんと言えていたのならば、私は、いや、私たちは今頃と過去に思いをはせてしまった優華。  彼女の声に焦る康太。それさえも優華は重ねるようにして言う。 『優華、ちゃんと考えてね? だって、俺さ』 「ううん、考えるまでもない。私はずっと康太の側にいたい。いさせてもらえませんか?」  今までで最も明るい満月が空に輝いていた。
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