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♢♢♢
「お待たせ」
晴れやかな気分で、僕は両手に持っていた缶ジュースの片方を差し出した。
今年は猛暑らしく、冷たい缶の表面はすっかり汗をかき、床に濃い染みを作った。
「ありがとう。本当に暑くて死にそうだったの」
誰もいない小屋の中で、プルタブを開ける音が二人分鳴り響く。喧騒から離れた静かな森の中。ようやく一息つけそうだった。
「ここならしばらく大丈夫そうだ」
「そうね。もう走り回るのはごめんだわ」
「食料はもう少し確保しないとだけど」
「それは私が行くよ。少し下った所に民家があったの。たぶん、頑固なお年寄りの一人暮らし」
あの時差し出しされた手を取ってから、もうどれくらい経っただろう。僕達は当初の計画通り、上手く裁きの目から逃れ続けていた。
「あなたが彼を殺してくれた時、本当にホッとしたの。やっぱりお似合いね、私達」
「そう言ってくれると嬉しいよ。だから言ったじゃないか。僕は光の海に導かれたって」
そう言うと彼女は笑った。
「導かれたのはたぶん、私のほう」
窓の向こうの光の海へ二人で漕ぎ出した日、僕と彼女は恋人になった。彼女は神様ではない。僕に差し出した手はエゴの塊だった。
そのことに気づいた時、僕は現実で目を覚ました。
「僕は君に救われたんだよ。紛れもなく。ずっと好きだったんだ。君のこと。四階の窓から僕を見下ろしていたことも知ってた」
「え、あの位置から見え無くない?」
「あの校舎裏の目の前には廃ビルがある。その窓にしっかり君が移ってたよ」
「呆れた。よく気づいたわね」
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