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「当たり前だよ。僕は空ばかり気にしていたから」
その言葉に彼女は納得したらしく小さく頷いた。
「だから嬉しかったんだ。君が手を差し出してくれた時、空から天使降りてきた思ったよ」
「それは言い過ぎ」
埃っぽい小屋の中で笑い合う。こんなささやかな幸せを僕はずっと求めていたんだ。
僕はあの時、この手を取れば救われると思った。僕は幸せになりたかった。両親を早くに亡くした僕が知らない人の温もりというものが欲しかった。
――そばにいてくれる人が欲しい。
そのために僕は彼女の誘いに乗って操られた。責任感の強い彼女は僕を拒めないと知っていたから。
彼女が差し出した手がエゴで良かった。もし正義感だったら上手く行かなかっただろう。利害関係で結ばれたエゴ同士の繋がりから秘密を共有する恋人同士になるためには、彼女を縛るものが必要だった。
そしてようやく僕は窓の向こう側へ行けた。
暗闇の中から抜け出して、とても暗い光を手に入れた。
「私達、これから上手くやっていけるかな?」
そんなこと分かりきっている。
誰かを傷つけずにはいられないこの関係の行く末は、もう決まっている。
「いつかまた、僕達は窓の向こう側に行く日が来る。それまで絶対に君のそばを離れないと誓うよ――」
古い小屋の窓の向こう側で、太陽の光が海のように揺れている。僕に微笑んだ彼女の瞳は、逆光で深い闇に染まっていた。
了
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