窓の向こう側

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♢♢♢ 「また明日」  僕の目の前で手を振って別れた女の子は、僕のクラスメイトで初恋の人だった。  たった今、僕は彼女に振られた。  下校する生徒達の人波に消えた彼女の左手は、僕の知らない男の右手と繋がれていた。隣の男と談笑する彼女の笑顔が遠ざかっていく。もうすぐあの二人は沖に沈んで、俗世の欲にまみれて汚れるのだろう。どこまでも、どこまでも暗い海の底に。  そして僕はいつだって光の中からそれを見ていた。  その男の手で彼女が汚れるのは許せなかった。二人だけの闇の中で、彼女の押しつぶされた息遣いや、虚ろにさまよう視線の先を想像して吐き気がした。同時にとても興奮した。  僕はずっと片思いをしていた。優しい彼女が差し出してくれた手を取ったあの日から、僕の世界は光に満ち溢れた。  光の中へ、温かい光の中へ行きたい。目の前に広がった光の海に向かって躊躇いなく飛び込んだ。とにかく光の中へ、光の底を目指して泳いだ。光が僕の身体にまとわりついて僕から離れない。永遠に離れないで欲しい。  僕は今も光の中を漂っている。それなのにどうして彼女は暗い海で泳ぎたがるのだろう。光さえ飲み込む漆黒の底で死にたがるあの二人はどうしようもなく愚か者だ。  常に愚か者は正されなければならない。でもあの二人はきっと変わらない。男はどうでもいいが、彼女だけは救いたい。諸悪の根源は男にあるのでは?それなら男もどうにかしないといけない。救えるのは光の海の場所を知っている者だけだ。それは誰?僕は知っている。そう、僕だ。  僕が愚か者を正さなければならない――。
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