4人が本棚に入れています
本棚に追加
◆◆◆
どうして、と問いかけても。
分からない、としか答えてくれない。
白過ぎて現実感のない病室。目を開けたら白い天井が広がっていた。鎮痛剤がようやく効いてきたのだろう、寝不足の原因になった鈍痛はすっかりおさまっていた。
ゆっくり体を起こすと、カーテンの向こう側からドアが開く音がした。
「開けますよー」
「どうぞ」
若い女性の看護師が朝食を持って来た。疲れているのか、顔色が少し悪い。
「具合はどうですか?酷い怪我だったと聞きました。転院されたんですよね?」
「はい。だいぶ良くなったので大学病院から移りました」
「経緯を概要だけですが聞きました。……本当に痛ましい出来事でしたね」
看護師は慣れた手つきで手早く食器を乗せていく。
「本当に。彼の呼吸が止まった瞬間を今もまだ鮮明に覚えてます。思い出したくないのですが、夢にまで出てくるんです。何か良い方法ありませんか?」
「残念ながら時が経つのを待つしかないですよ」
「私もそう思います。ところでどうですか?」
私が尋ねると、ふっと看護師の顔から笑みが消えた。そしてゆっくり首を振った。
「……駄目ですね、何も変わってません。光に目を背けたまま、現実を見ようともしません」
「……そうですか」
予想していたが、やはり傷は深いようだ。
「どうしてそこまで心配するのですか?」
「え?」
「だって、その……あなたを滅多刺しにした人間ですよ?そんな人の心配なんて普通しないでしょう?」
看護師に似つかわしくない台詞だ。だから彼女も後半は声を潜めたのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!