窓の向こう側

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◆◆◆  どうして、と問いかけても。  分からない、としか答えてくれない。  白過ぎて現実感のない病室。目を開けたら白い天井が広がっていた。鎮痛剤がようやく効いてきたのだろう、寝不足の原因になった鈍痛はすっかりおさまっていた。  ゆっくり体を起こすと、カーテンの向こう側からドアが開く音がした。 「開けますよー」 「どうぞ」  若い女性の看護師が朝食を持って来た。疲れているのか、顔色が少し悪い。 「具合はどうですか?酷い怪我だったと聞きました。転院されたんですよね?」 「はい。だいぶ良くなったので大学病院から移りました」 「経緯を概要だけですが聞きました。……本当に痛ましい出来事でしたね」  看護師は慣れた手つきで手早く食器を乗せていく。 「本当に。彼の呼吸が止まった瞬間を今もまだ鮮明に覚えてます。思い出したくないのですが、夢にまで出てくるんです。何か良い方法ありませんか?」 「残念ながら時が経つのを待つしかないですよ」 「私もそう思います。ところでどうですか?」  私が尋ねると、ふっと看護師の顔から笑みが消えた。そしてゆっくり首を振った。 「……駄目ですね、何も変わってません。光に目を背けたまま、現実を見ようともしません」 「……そうですか」  予想していたが、やはり傷は深いようだ。 「どうしてそこまで心配するのですか?」 「え?」 「だって、その……あなたを滅多刺しにした人間ですよ?そんな人の心配なんて普通しないでしょう?」  看護師に似つかわしくない台詞だ。だから彼女も後半は声を潜めたのだろう。
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