窓の向こう側

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「……独り言として聞き流して欲しいんですが」 「ええ、もちろんです」  私は大きく息を吐いた。開けられた窓から太陽の光が差し込んでくる。外はまるで光の海のように輝いていた。 「私がされた仕打ちは贖罪(しょくざい)の一部なんです」  私はあの日――手を差し出した日のことを思い出した。 「私はかつて、暗闇の中でうずくまっている男の子に救いの手を差し伸べました。彼は両親がいません。そしてたったそれだけのことで彼はいじめに遭いました。傍から見ても凄惨(せいさん)だったと思います。でも、誰もが見て見ぬふりを通しました。怖かったんですよ、誰だって自分が可愛い。その気持ちはよく分かるし、私だって同じです」  校舎裏に呼び出されて、数人に殴られている場面を四階の窓からいつも眺めていた。安全地帯にいる傍観者。それが私だった。 「でもある日、いつものように殴られていた彼が、失神したのか地面に倒れてしまったんです。それでようやく殴っていた子達は自分達がしたことの重大さが分かったようで、逃げるように去って行きました。その時です。見てしまったんですよ」 「見た?」  看護師は慌てて口を閉じた。つい、口に出てしまったのだろう。独り言に返事をするのはおかしいと気づいたのだ。 「無意識だったのか、それとも微かに意識があったのか分かりません。彼がその細くて傷だらけの腕をこちらに……四階の窓から眺めていた私に向かって伸ばしたような気がしたんです。もちろん、彼の位置から私の姿は見えませんから、気のせいだと思います。でも私には何故かそう思えなかった。あの手は私に伸ばされていて、それを取ってやらなければいけない衝動に駆られました」
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