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「それは優しさなの?私にはちっともそう思えませんが」
「あなたは潔癖なんですね。優しい嘘があるなら優しい殺人だってあると思いませんか?私はそれを否定しきれません。もちろん肯定もできません」
「……今聞いたお話だけで言うのは間違いかもしれません。でも一つだけ覚えておいてください。仮にあなたが手を取るように仕向けたとしても、選んだのは彼自身です。全て彼の意思決定です。あなたがしたことが正しいとは言えませんが、あなたが全て罪を被る必要なんてありません。刺されても良いなんて、そんなこと言う資格はあなたにありません。あの子は適正な裁きを受け、罪を償い、自らを改める他ないんです。そしてそれは彼が行うことです」
とても力強い目をしているな、と思った。
この看護師ならきっと、誰も傷つかないのは難しいけど、傷を最小限に抑える方法を見つけただろう。
でも残念ながら私は彼女ではない。
「もう、決まっていることなんですよ。それに……これはそんな悲観的な話ではありません。よくあるでしょう?毒を差し向けたはずなのに、手についた毒に気づかず差し向けた本人にも返ってくるって」
看護師は目を見開いた。
どうやら私の言いたいことが正確に伝わったらしい。
「私達は暗い海からようやく抜け出すんです。私も彼も、暗闇の中を深く潜って生きてきました。ようやくそれが終わるんです――」
光溢れる窓の向こうへ。レースカーテンで上手く隠れながら、私達はその先をどこまでも泳いでいくのだ。
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