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仮面のヒーロー
僕は今恋をしている
素顔も知らないあの人に
あなたは仮面の剣士
暴漢に襲われた僕を救ってくれた女性
顔を知らない相手を好きになるなんておかしなことだ
だけどもあの立ち振舞いよ
暴漢の反撃をひらりと交わす所作の美しさ
「怪我はありませんか」
ああ、その声の何と澄んだことか
人里離れた湖畔の 張り積めた水面
時間の流れを感じられるのは鼓動だけ
今は 僕だけがその鑑賞者
「最近は盗賊が増えています。ギルドに近かったので間に合って良かった」
彼女はギルド所属なのか
「忌々しい」
湖は時に荒れる
雷雨の中で
それもまた魅力に思えるのは恋のせい?
仮面を外して欲しいなどと言えるはずもない僕は
「助けて頂いてありがとうございます。僕は○○」
あなたの、お名前は
そう聞こうとして一瞬言葉に詰まる
(仮面の剣士様)
僕は心の中で彼女をそう呼んだ
今でも彼女の素顔を見たことは一度もない
だが僕はそれでも彼女が好きだ
いや、だからこそ、なのかも知れない
しかし例えいつか素顔を見る日が来ても
彼女の真実を知る日が来ても
僕の中で彼女は「仮面の剣士様」であり続けるだろう
記憶の中に焼き付いたあの日の姿でーー
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