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シュトーレンへ出発
翌朝、王城の庭先に二頭のドラゴンがいた。
魔獣のドラゴンとは違い、人懐っこい目をした飼い慣らされたドラゴンだ。大きさは馬の三倍くらい。背には鞍のような器具がつけられている。
「うわあ……まさかこれに乗って移動するんですか?」
ドラゴンを見上げるアルミラの目がキラキラしている。
ドラゴンを飼い慣らしているのは王族のみ。
勅命で速攻借りてきたんだろうけど、昨日の今日でドラゴン手配ってすごいな。
急遽、結成された幻獣勅命調査隊。
『討伐』ではなく『調査』としたのは殺すことが前提じゃないからだろう。
俺とアルミラはラリエット教会で祭事の手伝いしたらすぐラシール教会に帰るつもりだったから長旅の準備はしてきていない。
だからほとんど荷物持ってないからすっごい身軽。
でも勅命ってことならなんの心配もないのさ。だって全部依頼主、つまり王様が準備してくれるから。俺たちはせいぜい心の準備くらい。
「四人ならこちらの方がより早くシュトーレンにつけるでしょう。この子達は生まれた時から知っていますが、性格も穏やかで飛行も上手です。安全に貴方達をシュトーレン城に送り届けますよ」
ドラゴン使いの男が馬でも撫でるように慣れた手つきでドラゴンの顔に触る。
ドラゴンも男に擦り寄る仕草をみせた。
「どこにでも飛んで行ってくれるの?」
ドラゴン使いの男に聞いてみる。
「いいえ、この子達は王族専用の移動竜です。決まったルートしか飛ぶことを教えられていません。知らない街の民衆からしたら、ドラゴンが空を飛んでいたら驚くでしょう?」
確かに。俺なら迷わず攻撃するね。てかシュトーレン城ってさっき言った?
「お城あるの?シュトーレンて王族の領地なのか」
「シュトーレン侯爵のお城があります。侯爵と現王は親戚ですから」
ふーん。王家がドラゴンで行き来するくらい仲がいいってことはわかった。アルミラが綺麗な街だって言ってたから楽しみだ。広いのかな。一日で観光できるかな。
「シュトーレンへの到着は天候にもよりますが、三日後の朝くらいでしょう。泊まる場所はシュトーレンの郊外の宿を手配しました。向こうに到着したら案内人がいますから、その者が宿までお連れします」
マリアンナ様が歩きながら説明して、俺の横でぴたりと止まる。
お城内に客として泊まる部屋もたくさんあるけど、敢えてそっちじゃなく宿を取りましたよ、ってことだな。
悪いね、お気遣いいただいて。ロアやバルザックはともかく俺とアルミラの説明困るもんね。Fランク僧侶と魔導士なんで連れて来たか説明できない。変な嘘つくわけにもいかないし。
「シュトーレンからチェダールには馬車になりますが、わりと近いです。調査滞在は最大で十日。十日のうちに幻獣が現れなければ帰還してください」
マリアンナ様が旅の行程の説明を続ける。
「アルミラの話だと馬でだいたい五日って言ってたよな。空からだと三日弱、半分の時間で行くのか」
「……そうみたいですね。僕も驚きました」
アルミラが少し元気なさげに遠くを見た。
「ジルヴァのことなら気にしなくていいよ。あいつもわかってくれたから」
昨日、実はあの後ジルヴァに会ってひと揉めあった。
俺たちがシュトーレンに行けることになったのは教会の僧侶としての同行。だからジルヴァも一緒に、というのは難しかった。
そのことをジルヴァに説明したら当然ジルヴァは怒って『絶交よ!!』となったんだけど。
「でも僕たちは仲間なのに……」
「大丈夫、大丈夫。ちゃんとジルヴァのことは考えてるって。あの後、俺がジルヴァとちゃんと話したから」
アルミラの肩をポンと叩く。
「おおーい、待たせたなー」
でかい声にでかい図体のバルザックが大きく手を振りながら庭に入ってきた。
「バルザック遅いよ!」
言いながら俺はバルザックに駆け寄る。バルザックは俺には目もくれずドラゴンを見上げながら俺の蹴りをかわす。腰にタックルしたらローブのフードを掴み上げられた。
「フィル、遊んでいる時間はないぞ」
ロアが呆れてる。
なんかさ、バルザック見ると血が騒ぐっていうか、倒したくなるんだよな。
「ロアとフィルとまた旅するとはなぁ」
バルザックが俺を小脇に抱えながら嬉しそうに言う。
「あとアルミラもな」
「おおっ、マリアンナ様の息子か!楽しい旅になりそうだ!がっはっはっは!」
バルザックが豪快に笑った。
正直、ウロボロス討伐に比べたら幻獣追い払うくらいこのパーティーなら楽勝。
運河の魔獣全部一掃することもできると思うぞ。
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