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二頭のドラゴンには俺とバルザック、ロアとアルミラ、それからドラゴン使いの案内人がそれぞれのドラゴンに乗った。
「バルザック、俺が前な!」
バルザックの後ろじゃなんにも景色が見えないからな。
バルザックは「わかった、わかった」と言いながらが、俺を荷物のように小脇に抱えたままドラゴンのところに歩いていって乗った。てか、下ろせ。
巨体のバルザックが乗ってもドラゴンはビクともしない。ドラゴンが大きいからってのもあるけど、力が強いからだろう。間近で見るドラゴンの表皮は白くて綺麗だけど、硬いウロコ肌に覆われていてその下の筋肉も凄まじい。
「準備はいいですか?」
一番前、ドラゴンの首元に乗ったドラゴン使いの男が振り返る。
「は、はい!」
アルミラの緊張した返事が聞こえた。ドラゴン達が飛ぶ体勢に入る。
まさか空の旅になるとはね。
わくわくするな。家出はできるし、また仲間と旅できる。
ドラゴンが両翼を広げる。魔力が高まるのを感じる。一気に上昇する気だ。俺は両腕で手綱を握りしめた。バルザックが片手で手綱を握り、もう片方の腕で俺をがっちりホールド。
痛いよっ!って文句を言おうとしたその時。
身体に重力がのしかかり押さえつけられる。
「ーーっつ!」
二頭のドラゴンが呼吸もぴったりに一斉に翼をはためかせ、真上に上昇した。
飛び方が普通の鳥とは全然違う。両翼に魔力を込め、一気に真上に上昇していく。
「フィル、大丈夫かぁ?」
バルザックがのんびりした声で後ろから聞く。
「び、びびったぁ……」
気がつけば身を屈めて両目をつむっていた。バルザックが掴んでいてくれなかったらやばかったかも。
頰に風を感じ、ゆっくり目を開ける。
「お、おおーーーーーっっ!」
空の上にいた。
地面がない。
建物がない。
空が近い。
薄暗い夜明け前の空を悠々と飛んでいる。
魔力を使っているからか、飛行も早い。
「すげえっ!!」
下を見ると薄暗い王都の街の全景が見えた。その中心にお城。さっきまでいたはずの庭は小さく、砂粒くらいの人影しかわからない。
「そっちのドラゴンは大変そうだな」
びゅうびゅう風が吹き抜けていく中、誰かがバルザックに話しかけてきた。
バルザックで死角になって見えないけど、斜め後ろを飛んでいたロアだ。
そういやロアと一緒に乗ってたアルミラはどうなったかな。失神してないか?
首を伸ばして斜め後ろを見る。するとアルミラが満面の笑みで手を振ってきた。
「フィル〜!」
アルミラ、こういうの得意なタイプなのか。あいつ、性格温厚なわりに意外と度胸あるよな。
ドラゴンは風に乗って、翼をはためかせさらにスピードを上げた。時々、ドラゴンが鳴き声を上げ、もう一体がそれに答えるように鳴く声が大空に響きわたる。
「夜が明ける。日が差し込んでくるから東には目を向けるなと言ってるな」
ロアが言う。ドラゴンの会話わかるのかよ。すげえな。
ドラゴン達が言っていたように、東の空が明るくなって、地平線から空と地面を割るように朝日が射してきた。
風に金色の色がついたように暖かく感じる。
森や湖や大地の隅々まで朝日が差し込み、生き物の目覚めさせる。
風がやわらかくなったかと思うと、今までスイスイ飛んでいたドラゴンの身体が揺れだした。
朝日に温まった大気で気流が乱れてる上、バルザックが重いからバランス取るのが大変なんだろう。
「フィル、風魔法で援護してやれ」
ロアが言う。
え、そんなこと急に言われてもどうやるかわからないし。
「どうやって?」
「こうだ」
ロアが長い腕を真っ直ぐ正面に伸ばす。
中指にはめていた指輪が一瞬緑色に光ったかと思うと、正面から強い風が流れこんできた。
「わあっ」
声を上げたのはアルミラだ。
向かい風に乗って飛行が安定する。
結構高等な風魔法を簡単にやれとか平気で言うのな。魔力には自信あるけど、コントロール間違えたら危ないだろ。
ロアは国一つ滅ぼすくらい本気になればできそうっていつも思う。
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