アルミラのフルーツサンド

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アルミラのフルーツサンド

 日が高く上り始めた頃、湖のほとりで最初の休憩をとった。  朝日が湖に反射してきらきら光ってきれいだ。 「あの、良かったら朝ごはんにしませんか?僕、サンドイッチ作ってきました」 「おおっ。アルミラのサンドイッチ!やった!食べる、食べる!」  旅のお楽しみアルミラの手作りサンドイッチ。前にアルミラと王都に行った時も作ってきてくれたっけ。  草の上に布を()き、鞄をあさるアルミラの前に俺は正座した。 「あまりたいしたものは出来なかったんですが……」  アルミラがサンドイッチを次々と並べる。  サンドイッチは例によって紙に包まれていた。  今回は長方形じゃなくて三角型だ。  いつの間にかロアも近くに来ていた。真剣な目つきでサンドイッチを凝視(ぎょうし)。  食べ物に関心を向ける目つきとは思えないくらい(するど)い。 「開けていい?」 「どうぞ。あ、ロアさんも良かったらどうぞ。お口に合うかどうかわかりませんが……」  アルミラは器用に水と火の魔法を使い、小さな鍋にお湯を沸かし、ハーブとミルクを入れ煮立たせる。いい匂い。  俺は待ちきれずサンドイッチの包みを開けた。 「フルーツサンドだ!」 「はい。ラリエット教会でたくさん果物がいただけたので、それで作りました」  材料はフルーツと生クリームだけ。でもただのフルーツサンドじゃない。四角いパンを斜めに切って三角の型をしてるんだけど、その断面がきれい。みかんを水平に切ってお花のように見立て、花の中心にブルーベリー、キウイで葉っぱと茎を作っていた。 「ほう」  ロアが片眉を上げ関心する。 「すごいだろ、アルミラのサンドイッチは芸術的なんだ」  正直言ってアルミラの一番高い能力だと思っている。  こうなると他のサンドイッチも気になる。  包みを開けてみる。苺のヘタの部分に切り込みを入れ、葉と茎はさっきと同じキウイ。 「チューリップだ!」 「正解です」  アルミラがにっこり笑って湯気のたつカップをさしだす。 「カモミールミルクティーです。温まりますよ」  他のサンドイッチも見てみる。白い生クリームに緑色のマスカットと濃い紫色の葡萄で水玉模様のやつとか。 「ロアさんもよかったらどうぞ」アルミラが少しビビりながらロアにもカップを差し出す。 「毒とかは入ってないですよ……」 「あ、大丈夫。(けわ)しい顔してるけどロアは考察に入っただけだから」 「考察ですか?」 「そう。エルフって分析考察長話しが大好きなんだ」  面倒な習性だよ。後々アルミラも分かると思うけど。 「ふむ。断面で花を表現するとは発想が豊かだ。我がエルフ族の歴史にも伝わっていないな」  味はもちろん美味しい。パンはふわふわだし生クリームは甘すぎない。無限に食える。  カモミールミルクティーも優しい味。寒かったから身体が温まる。 「レベル高いだろ?」  なぜか俺が自慢げにロアを見上げる。 「認めよう」  なぜかロアも上から目線だ。  それからバルザックやドラゴン使いの人も集まってきた。食べ物だけ見るとガーデンパーティーみたい。  もう少しドラゴンに頑張って飛んでもらった後、その日の夜は森で野宿をすることにした。  王都とシュトーレンの間には街道があって宿場になりそうな街もあるけど、ドラゴンで飛来するわけにはいかない。  街の近くの森に着地するから、俺たちだけで街に泊まるよう、ドラゴン使いが強く勧めてくれたけど俺は(かたく)なに断った。 「だって野宿の方が楽しいじゃん。夜中にキャンプファイアーやりたいし」  そう理由を言ったら、ドラゴン使いたちが半分呆れて固まった。  ロアとバルザックも腕を組んで無表情。あれ?野宿反対派? 「バルザック、キャンプファイアーとはなんだ?」 「確かサラマンダーを呼び出す儀式だ」  全然ちげえよ。てか知らないのかよ、キャンプファイアー。これだから遊び心を失った大人は。 「いいですね!キャンプファイアー!明るいうちに(まき)を集めなきゃですね、フィル!」  アルミラだけが大喜びで賛同してくれた。
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