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シュトーレン城
何度か湖や池の近くで休憩し、ドラゴンたちを休ませつつシュトーレンに着いたのは王都を出発してから二日後の夕方だった。
三日かかる予定だったからかなり早く着いた方だ。
うっすら雪の積もるぶどう畑の先に、小高い山の上に建つお城が見えた。
「あれがシュトーレン城です」
ドラゴン使いが指差す。
遠くに氷雪に覆われた山脈が連なる雄大な自然、そして白い岩山の街の頂上に建つ白いお城、シュトーレン城。絵になる景色だ。
シュトーレンは頂上に建つ城を中心に岩山全体が街になっていて、岩山の周囲にも街が広がっている。その郊外に畑や牧草地が広がり、北の方には大きな川が流れている。
あれが問題の幻獣が出るムース川か。
大きく旋回しながら下降してシュトーレンの街に近づくと鐘の音が街中に響いていた。
「あの鐘の音が我々が到着の合図です」
ドラゴンが飛来するけど魔獣じゃないよ、って合図か。
「王都を出発した時も本当は鳴らすんですけど、夜明け前でしたし、一気に上空まで上昇して人目につかないようにしたんですよ」
シュトーレン城に近づくにつれお城の細かな装飾がよく見えた。王都のお城ほど大きくはないけど、岩山の上に立っている分、お城の全容がよく見える。
ドラゴンはその庭ともいうべき場所に降りたった。
ひんやりとした空気。降り立った地面に雪がうっすら積もっている。吐く息も白い。
「お待ちしておりました!」
出迎えのシュトーレン城の従者や兵士が集まってきた。その最前にいた騎士の一人が俺とアルミラに向かって真っ直ぐ歩いてくる。
見覚えのある長い金髪。胡散臭いイケメン騎士。
「クロスさん!」
アルミラが嬉しそうに声を上げる。
「久しぶりだな、フィル、アルミラ。話しは後にして、お前たちはここから離れたいだろう?こっちだ」
クロスがマントを広げ俺たちを隠すように庭の建物の陰へ誘導する。
「大丈夫、ロア様たちと話しはついている」
シュトーレン領主に会っても俺とアルミラが同行してきた理由が思いつかない。
ロアたちをちらりと振り返ると兵士たちに囲まれ歓待を受けていた。
ロアはまったく笑ってなくて怖いけどね。
バルザックを初めて見た兵士たちはデカさにびびってるけどね。
「クロスさん、こちらに来ていたんですね」
「ああ。といっても到着したのは昨日だけど」
「昨日?クロスは冒険者として俺たちの庇護者だから任命されたんじゃないのか?」
「いや、今回は本当に偶然だ。俺はもともと単騎での先行偵察が仕事だからな。偵察から調査隊の援護に変更になったんだ」
クロスの話しによると、ラリエット教会シュトーレン支部から相談を受けた後、すぐに王都を出たらしい。それで運河に行って調査を始める前に俺たちが行くことが急遽決まった。
「幻獣の被害はそんなに出ているんですか?」
アルミラが聞く。
「いや、今はまだごく一部だ。ただ、幻獣に関しては希少性が高くてあまり情報がないんだ。だからこれ以上騒ぎにならないように警戒しているってところだな。それより城の外に宿を取ったよ。それで良かっただろう?」
「ああ、助かる」
裏門のようなところから城外にあっさりと抜け出す。途中、騎士や兵士とすれ違ったけれどクロスが目線で合図を送り誰からも止められなかった。
話がついてるんだろう。
「ここまでくれば大丈夫だ。ところで晩飯はもう食べたのか?」
街に着けばなんか食えるだろうと思ってたけど、ロアたちと別行動となるとは思ってなかった。
「いや、まだだ。腹減ったよ。なあアルミラ」
「そうですね」
「なら俺のオススメの店に行こう。城の歓待というほどのご馳走じゃないが、うまい店を知ってる」
「隠し子役はもうごめんだからな」
「まだ覚えてたのか」
クロスが笑う。当たり前だろ。あれがお前と初対面だったんだから。
城の敷地を出て街の路地へ。
狭くて入り組んだ道の両脇にはレストランやお店がひしめいていた。
建物の窓から漏れる明かりが煌々と道を照らしお客を誘う。
どの建物も古くて年季の入った看板が道に突き出していい雰囲気。
どこのお店入っても美味しそう。
上空から見た時、街全体が白っぽく見えたのは、うっすら積もった雪のせいもあるけど、建物や道も白っぽい石で出来ているからだ。白いレンガに木枠の窓がはめ込まれた建物が並ぶ。
クロスについて石畳みの坂道を下り、いくつか角を曲がる。飾りのついた街灯が多く点灯し、人通りが多くなった。
……多くなったっていうか、大騒ぎになってる。夜中なのに人々が道を全力で走ってる。
「何、なんかあったの?」
「クロスさん、幻獣が来たのでは……!?」
「いや、そんな情報はまだ入ってないはずだが……」
さっきクロスが言ったとおり、幻獣ってどんな動きするか予想がつかない。
クロスのチャラいイケメン面が珍しく真剣になる。
「ちょっとすみません」
クロスが街の人を捕まえる。
「何かあったんですか?」
「ああっ!騎士様!何かあったどころじゃありません!魔王が!ドラゴンに乗って城に攻めて来たんですよぉぉ!!」
この世の終わりとばかりに男は絶叫。
対して俺らは呆然。
「魔王が巨人族と空から攻めて来たぞー!!」
男が叫びながら走って行った。
「……」
それって絶対ロアとバルザックのことじゃん。
全然、ドラゴン航行のこと街に周知されてないじゃん。
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