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それからクロスが注文した料理が次々と運ばれてきた。
スイートポテトのハーブロースト、ローストナッツ入りクリームコロッケ、白茄子のグリル焼き。
キャベツとパプリカのレモンマリネ、オレンジとクリームチーズのサラダ、サワークリームのポテトサラダ。
大きなテーブルはあっという間に料理で埋まった。
クロスのお薦めだけあってどれも美味い。
「なあ、クロス。さっきの話しだけど。なんで俺に期待したの?」
「ん?何の話しだ?」
「この店入る時にさ、俺がシュトーレンに来たら幻獣退治勝手にするんじゃないかって密かに期待してたって言ってたろ」
「ああ、不快だったら謝る」
「いや、そうじゃなくて。俺でも退治できる自信はあるけど、ロアとかバルザックが一緒なら普通はそっちに期待するだろ」
「ロア様やバルザック様は思慮深い。人族のために他の種族と無益な戦いはしないだろう。でもフィルなら珍しい幻獣に突っ込んでいきそうだ」
アルミラがプッと吹き出した。
じろりと見るとアルミラが慌ててラズベリーソーダを飲んでごまかす。でも炭酸だからむせていた。
「突っ込まないよ。魔獣ならともかく。幻獣って悪さするやつとは限らないだろ」
「大人になったな、フィル」
「そんな長い付き合いじゃないだろ」
「それにしてもマリアンナ様はアルミラの同行まで許すとは思わなかったな」
マリアンナ様といえば、俺がアルミラも一緒に連れて行くと言った時のマリアンナ様とロアのやり取り。気のせいかもしれないけど、親しげに見えたんだよな。それはそれで変な感じ。
「なあ、クロス。マリアンナ様とロアってどういう関係なんだ?」
「ど、どんなって……?」
クロスの目が泳ぐ。アルミラから露骨に目をそらす。アホか、この不倫騎士。
「愛人とか陰で付き合ってるんじゃないか、とかそういうんじゃなくてさ。俺の知ってるロアはあんまり人とは仲良くしたがらないんだ。だからマリアンナ様と親しげに話してるの見た時、ちょっと不思議だった。なんか一緒に仕事でもしたことあるのかなって」
「なんだ、知らないのか?フィル」
クロスが驚いた顔をして、アルミラを見る。アルミラも知ってるのか。アルミラはマリアンナ様の家族だから知ってるか。
「なに?俺に内緒のこと?」
アルミラに聞く。
「あ、いえ、内緒というわけではなかったんですがあえて言わなくてもいいか、っていうことになって……」
歯切れ悪いな。それからクロスとアルミラが見つめあったまま黙った。なんなんださっきからこの二人。
「えっと、実は三年前、フィルを救出隊に参加したのは母……いえ、マリアンナ様だけじゃなくてロアさんとバルザックさんも一緒だったんです」
「え?そうなの?」
それは初耳だ。
俺は聖女様が涙を流すのを見てそのまま気を失っちゃったから、それ以外に誰がいたかまでは見てなかった。
「そっか、あの時ロアも来てくれてたんだ」
「フィル、ロアさんは三度、フィルを助けに行っていますよ」
「え?」
ウロボロスが巣窟にしていた土地は、人族の王家の古代遺跡で、王家とラリエット教会高僧しか知らない門外不出の結界が張られてた。
でも結界が張られているのは外と中の境界だけだったから、ウロボロスたちに地中から侵入されちゃったらしい。
マヌケな話しだけど、人族にとって崇高な土地を護るための結界が逆に利用されて手も足も出せなかった。
他種族はもちろん、人族の中でも限られた人にしか受け継がれていない結界魔法。だからロアたちだけじゃ遺跡に入れないってのはロアも知ってたはずだ。
「ああ、そっか。それでマリアンナ様が来てくれたってわけか」
「はい。あ、いえ……ことの始まりから話しますと、五年前のウロボロス討伐の時に行くはずだった宮廷魔導士が闇落ちした時、母が代わりを務めるはずでした。でも当時、王都でラリエット教会出身の天才魔道士として有名になっていたフィルが討伐に参加の名乗りを上げて、民衆の関心が集まってしまったんで教会も承認せざるを得なくなってしまったんです」
民衆の関心か。あの時の俺はただ家出がしたかっただけだけどな。
「マリアンナ様は僧侶にして騎士だ。毒を持つウロボロスと剣は相性が悪い。そういう意味でも攻撃魔法が使える魔導士の方が向いている、という意見も強かったしな」
クロスが付け足す。
その結果がウロボロスを倒すことには成功したものの俺だけが帰らぬ人になったわけか。だから……だからマリアンナ様はあんなに泣いていたんだな。俺が身代わりになったと思って。
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