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幻獣討伐依頼
——トントン。
その時、ドアをノックする音がした。
三人が一斉にドアを見る。
誰だ?俺たちが待ち合わせしたのは三人だけのはずなんだけど。
「大司教様、よろしいでしょうか」
——!!
その声を聞いた瞬間、思わず俺とアルミラの背筋がピンと伸びた。マリアンナ様だ。
「ナターシャか?」
「マリアンナ様だろっ!」
サンじいのボケに思わず突っ込み、慌てて口を押さえる。
「あら?今の声は……」
やばい、つい大きな声をだしちゃった。バレたかな。
「フィル?」
バレた。いや別に話さえ聞かれてなけりゃお茶してるだけにしか見えないから平気なんだけど。
俺はドアを開けに行った。
マリアンナ様に会う時ってなんか緊張すんだよね。
「あら、やっぱりフィルだったのですね」
ドアを開けた俺の顔を見てマリアンナ様が微笑む。
「こちらに来ているとは聞いていましたが、大司教のお部屋にいるとは思いませんでした」
穏やかな声。この部屋にいるとは思わなかったってことは、俺たちに用があるわけじゃないのか。
「ああ、うん。たまたまね。お茶してて。アルミラもいるけど、マリアンナ様も一緒にお茶する?」
「あ、いえ……私たちは大司教様にご相談があって来たのですが……ティータイム中だったのですね」
私たち……?マリアンナ様の後ろをのぞくと、他に僧侶が何人もいた。その中にはノーキンもいる。
「なんだ、フィル。お前も呼ばれていたのか」
ノーキンも俺に気づく。その後ろにはノエルも。他にいるのもわりと偉い位のやつ。偉い位っていうより……このメンバーはバジリスクの時と同じ僧侶の中でも魔獣と戦う魔法が使える僧侶だな。
「ああ、そっか。仕事の話か。それじゃ俺たちが出てくよ。ただ遊びにきただけだから」
「ごめんなさいね、フィル、アルミラ」
マリアンナ様が申し訳なさそうに言う。全然いいって。だって俺たちは元々は旅の打ち合わせをしたかっただけで、サンじいに用なんてないもん。
僧侶たちがゾロゾロ部屋に入ってくる。その中で一番後ろにいたやつだけが異彩を放っていた。
銀髪の長い髪、背が高く濃紺のローブ。冷たい眼差しに尖った耳。ネックレスやら指輪やらジャラジャラアクセサリーを付けたエルフ。
ロアだ。前にウロボロス退治に一緒に行った仲間。
ロアも俺に気付いた。
「フィル」
まるで魔王がゴミを見下ろすような眼差し。本人はそんなつもりはないんだろうけど、顔面狂気エルフだから仕方ない。
「ロアも会議に参加すんの?」
ロアの前を歩いていた何人かがぎょっ、とした顔で振り返る。ロアのことは昔からよく知ってるからタメ口。別にケンカを売ってるわけじゃない。
「ああ。呼ばれたから来た。幻獣の生態について俺の意見が聞きたいそうだ」
「幻獣?」
「北の街の近辺で幻獣が出たらしい」
ふーん。
ロアは部屋の奥に入っていき、入れ替わりに、慌てて皿とティーカップを片付け終えたアルミラが俺のそばにやって来た。
アルミラはマリアンナ様の横を通り過ぎる時、ちらりと見上げてから一礼をした。アルミラは頭を下げてたからわからないと思うけど、マリアンナ様は一瞬だけ表情を緩めた。
「大司教様、では僕たちはこれで失礼します」
俺の横に並んだアルミラが礼儀正しくお辞儀する。
てかジルヴァどこいった。窓が開いているから、窓から逃げたのか。ここニ階だけど。逃げ足早えな。
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