幻獣討伐依頼

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「でもフィル、本当に大丈夫なんですか?」  話し合いは一度解散し、サンじいの部屋に残ったのは俺とアルミラ、マリアンナ様とロア、それからサンじいだけになった。 「大丈夫だって。前に一緒に旅をしてロアのことはよく知ってる」 「いえ、そうではなくて、エルフの里なんて、人族未踏(みとう)の地と言われているんですよ?」  ん?何か話しがかみ合わない。 「あのさ、アルミラ。ロアって北の土地の領主でもあるんだ。そっちの方だと思う」  エルフ族が人族の土地治めるのは珍しい。エルフ族の土地以外では放浪(ほうろう)してるようなイメージあるし、実際ロアもほぼ放浪している。今も王都に長く滞在してるし。 「そうなんですか」 「ああ、そうだよ。なあロア。ロアの故郷ってウィンタルのどっかの領地のことだろ?」 「いや違うな。俺が故郷と言ったのはエルフの里だ」 「ガレット家の領地じゃなく?」 「違うな。そんなことは一言も言っていない」  ロアが口の端を上げて笑う。  俺、やっちまったかも。 「フィル、まさかとは思いますが勘違いしていたんですか?」  マリアンナ様が不安そうに俺の顔を(のぞ)き込む。逆に勘違いしてたのは俺だけかと聞きたい。 「え、てかエルフの里ってどこにあんの?」  マリアンナ様を見た。 「人族未到の秘境、と聞いています」  アルミラと同じこと言ってる。つまりわからないってことね。  ……うん。まあでも、そもそも目的は家出だ。勘違いしてたからやっぱ行かないって断ったところで代案はない。それより旅は道連れ。 「じゃあさ、バルザックも呼ぼうよ」  ロアと俺とバルザックは五年前のウロボロス退治の主要メンバー。  バルザックは普段、門兵として王城の門を守っている。  巨人族のバルザックが門の守衛に付いて以来、一度も魔獣に城門を突破されたことがないのは王都の伝説の一つになりつつある。 「ふむ。バルザックか。そうだな。久々に三人で旅をするか」 「何言ってんだよ。三人じゃないよ、四人だ」 「四人?」  ふとロアが俺の隣りのアルミラを見る。  その冷たい目つきやめろって。  普通に見ただけかもしれないけど、鋭すぎて怖いから。顔面狂気エルフだから。  アルミラも自信なさそうにうつむいちゃったじゃないか。 「てか、もともと俺とアルミラが旅に行く予定だったところにロアとバルザックも入れてやるんだからな。エルフの里行くのは俺だけでいいけど、シュトーレンまではアルミラも一緒に行く。じゃなきゃ俺、行かないよ」 「フ、フィルっ……!」  アルミラが慌てて俺のローブの(そで)を引っ張る。だって本当のことじゃん。  ロアがマリアンナ様の方を見た。 「マリアンナ、この子は貴殿の子息だろう。一緒に連れていってもいいのか?」  マリアンナ様が俺とロアを見て、そしてアルミラを見た。 「本人の意思を尊重します。アルミラ、貴方が決めてください」 「僕は……僕はフィルと一緒に行きたいです!」  アルミラが即答した。まるで聞かれることがわかっていたみたい。というより、反対されても行くって言う用意をしてたんだろうな。マリアンナ様もアルミラがそう言うのを始めからわかっていたように小さく頷き、ロアを見る。 「ロア、あなた方の力量にアルミラは遠く及ばないでしょう。それでもお願いできますか?」 「危険な目に合わせないとは保証できないぞ。なんせフィルが一緒だからな」  ふふっとマリアンナ様が笑い俺を見る。  マリアンナ様が『ロア』って言ったのを俺は聞き逃さなかった。今の親しげな会話といい、マリアンナ様とロアってそんなに仲良かったんだ? 「ご出立はいつに?」  マリアンナ様がロアに聞く。 「早い方がいい。明朝にしよう」 「わかりました。ではこちらでもできるだけの準備をしておきます」  さっき話しを盗み聞きしたかと思ったら、もう明日の朝出発の旅が決まった。決断力ハンパないな。 「それから……勅命(ちょくめい)を発していただけるよう王城に掛け合ってみます。シュトーレンは王都に次ぐ大きな街。国としても重要な拠点ですから」  おおっ!思わず身震(みぶる)いした。勅命! 「フィル、勅命って……」  アルミラも興奮していた。そう、勅命ってのは王様から直属に命令されること。ウロボロス討伐と同じ国からの依頼。あの時よりはるかに規模は小さいけど、あらゆる特権が与えられる。  例えばそこそこの犯罪起こしても『任務遂行中(にんむすいこうちゅう)』ってことで許されちゃったり、宿とか飲食とかタダになったり、領地境を書状一つで超えられたり色々。  国にとって脅威になりうる魔獣が出た時に、この者たちに退治を(たく)したからみな協力するようにっていうのが勅命討伐。  とにかく俺たちの目的、チェダールで奇跡のチーズケーキを食べることはできそう。  あと残された問題はどうやってジルヴァを連れて行くか、だけだな。
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