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 2021年5月5日。今にも豪雨を降らせそうな暗雲が、ゆらゆらと漂う日本列島。  ここは、ワンワン警察署の会議室。ソーシャルディスタンスを保ったとしても、100人は踊れるほどの、広々とした部屋だが、今年は一度も使用されていない。税金の無駄である。 「準備完了……後は時を待つのみ」  室内の前方にある巨大なスクリーンから、対角線に設置されたプロジェクターを、手慣れた様子で操作する若い男が、マッドサイエンティストのような口振りで、眼鏡を指で押し上げる。  彼の名前は岩崎(いわさき)元太(げんた)。ワンワン警察署に配属されて2年目のフレッシュボーイだ。 「……なんとしても成功させる!」  ガッツポーズを決めて気合いを入れる岩崎。が、今にも眠りに落ちそうな表情をしている。  それもそのはずだ。かれこれ3日間、一睡もしていないのだから。  今日は、地域の子供達を集めて、が開かれる。この日のために、彼は寿命を削ってきた。
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