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素手でスズメを触ったら……
深い深い森の中、とある男が一人だけで野生児の如く木々の間を駆け回る……
彼も以前は人間社会の中で普通に過ごしていた平凡なフリーターだったのだが、ある事がきっかけで人間社会から離れざるを得なくなった。
「ふぅ、ようやく綺麗な水の在処にたどり着けたか。
人間社会から離れてこの森まで追放された時なんか放心状態で何をする気も起きなくなってしまったが、しばらく過ごしてみると案外快適だな?はっはっは!……はぁ、酒飲みてぇ〜」
これは今から3ヶ月前のお話である。
彼…今中藤也(いまなかとうや)が1羽のスズメと出会った事が始まりだった。
「ふぅ、牛乳配達終わりっと!さっさと片付けて帰るとするか。……すいません、お先に失礼しますー!」
配達用の短車を新聞会社の駐車場に戻した俺は、社内にあるロッカーから財布とスマホを取り出し施錠(せじょう)する。
帰る前にコロナ対策でマスクをつけてから他の社員に一声かけると、おじさんおばさん達は作業中もマスクつけていてしゃべれないでいるから、片手をあげて合図してくれた。
俺が会社を出て自転車で自宅まで戻る途中、滅多にないような出来事を目撃する。
それは、どういうわけか一羽の鮮やかな黄色い羽を持つスズメが、大型犬が用をたしたであろう[でっかいフン]の中に両足をつけてしまっている……そんな光景だった。
「……何がどうしてそうなったのかしらねぇけど、気の毒過ぎるし助けてやるか。本当はそんなことしたら、こいつは群れの中で暮らせなくなるんだろうけど正直見るに耐えない。」
「チュン!チュン!……ヂュ⁉︎」
俺が素手でそのまま犬フンから救い出し、本当は飲むつもりで買っていたペットボトルの水を自分の手とスズメの足から尻にかけて、気休め程度に洗っていく。
気のせいか、俺がスズメの尻の下に指を添えた時ビックリしたのかと思える顔つきでグルン!っと首を俺の方に向けてきた。
「よし、あらかた洗い終わったな?あとは自分で洗えるだろスズメっ子……じゃあな!」
濡れた手につく水滴を適度に振り落とした俺は、改めて自転車に乗って帰路についた。
あとで、自分の手と自転車の持ち手を消毒しておかないと……
「チュ……」
救い出されたスズメは、まるで慕う乙女のような顔つきで颯爽(さっそう)と走り去っていく彼の後ろ姿を、ずっとその目に焼き付けていた。
スズメを助けた日から約一週間の間、少しずつ異変が起き始めていることに気づく。
なんと!毎日のようにスズメの群れが俺のいく先々でついて来るようになり、今となっては新聞配達中でも俺の肩の上に数匹止まるようになったのだ。
「チュン!チュン!」
「チューン♪」
好かれるのは悪くないが、日に日に数も増えてきたしだんだんスズメの臭いが全体的にひろがってきた気がする。
「クンクン……あ〜、やっぱ鳥臭いか。職場に戻ったらまた煙たがられそうだなぁ?」
野生の鳥の群れとその匂いが、俺の全てを包みこんでいた……
「チュンチュン、チュチュン♪」
その様子を黄色い羽を羽ばたかせて、上空から嬉しそうな瞳で見つめ続けているスズメ。
彼の周りに集まっているスズメ達のリーダーだとでも言うのか?
「おい今中、今日も鳥臭いぞ!本当に飼ってないってのか?……ぶぁっくしょん〜‼︎あーくそ。こちとら鳥アレルギーだってのに」
「す、すいません社長〜!」
「とにかくさっさと帰ってくれ!だがもし明日もそいつらが着いてくるようならお前はクビだ」
俺の両肩にいるスズメ達が羽ばたく度に羽毛が飛び散り、社長を含めた従業員の仕事を妨害してしまう始末。
翌日、さらに俺の体には昨日よりもたくさんのスズメ達が群がっている事で、とうとう俺はこの日をもって退職させられた。
その後各企業に面接行っても必ずついてくるスズメ達……俺はとうとう、人のいる街中の暮らしができなくなってしまったのだった!
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