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「……真由子?」
「ん?」
「あ、いや」
初めて凌馬から「真由子」と呼ばれたから驚いた。今までは「まゆちゃん」と呼んでいたのに、時の流れというのは恐ろしい。また恐怖を抱きそうになってしまった。
「T大だけど」
「……T大? あの?」
「うん」
凌馬は目をまん丸にして、口をあんぐりさせる。そう言えば、どこの大学に進学したかは凌馬には言っていなかった。なかなか会う機会もないし、従弟だからという理由で報告を後回しにしてしまっていたのだ。
「頭良いもんな」
「いやー、そこまでじゃ……」
「謙遜しなくていい」
椅子に座ると、早速パラパラと参考書を捲り始める。すっかり日に焼けて小麦色になった肌は、野球を頑張っているんだなぁというのがよく伝わってきた。私は近くから椅子を持ってくると、凌馬の隣に置く。自分も椅子に座って、参考書を眺めた。私が使っていた参考書とはバージョンが新しくなっているものだ。
「今日部活なかったの?」
「あった。さっき終わって、昼飯食ってきた」
「あー、そう」
凌馬はずいっと参考書を私に見せると、付箋が貼ってあるところを見る。数学で初期にやる命題の単元だった。付箋が貼られているのは命題の証明についてだった。確かにこれはややこしい。
「命題の証明ね。面倒くさいよね」
「うん」
「私も嫌いだった」
「そうなんだ」
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