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「してやられたな」
再び私を呼び出すと、社長は開口一番ため息交じりにそんなことを言って来た。
「こんなの、全然『やられて』ませんよ。大嘘なんですから、また訂正すればいいだけです」
「事はそう単純やないぞ、亜理紗。坂川が『やった』と言えば、それを事実として報じるゴシップ紙は山ほどあるんや。たとえそれがフェイクでもな。話題にさえなればいい。それがマスコミってもんだ」
社長は、苦み走った表情を浮かべながら懐から煙草を取り出し――火をつける直前に、自分で壁に貼った「禁煙」のポスターに気付き、煙草をゴミ箱に投げ捨てると大きなため息を吐いた。
「あの番組のプロデューサーから聞いたんやけどな、坂川はどのみち番組を降板する予定だったらしいんや。ギャラが高すぎる、言うてな。かなり揉めたらしいで。……つまりは、そういうことや」
「どういうことですか? 全く分かりません」
「だからな、ギャラ交渉に失敗して降板したんじゃ恰好がつかないから、不祥事の責任を取って、ということにしたかったんや、坂川は。それで、子飼いの芸能記者にでも頼んで、前回と今回の記事を捏造したんやろうな」
「はぁ?」
社長の言っている意味が全く分からず、私は思わず間抜けな声を上げていた。
恰好を付ける為に不祥事の責任を取ったことにした? 全くもって意味不明だ。それが何の得になるのだろうか。
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