俺はご機嫌なα

1/1
前へ
/4ページ
次へ

俺はご機嫌なα

裏庭に着くと、もうすでにαの姿はなく花井が一人ぽつんと立っていただけだった。 もうOKしてしまった…? 「―――花…井?」 突然現れた俺の姿に花井は心底びっくりしたようで、一瞬だけこちらを見たがすぐに俯いてしまった。 「花井、アピール…受けた…のか?」 「―――え…?」 と、真っ赤な顔をした花井が俺の事を見た。 やっとまともにぶつかる視線に、たとえ遅かったとしても自分のこの気持ちを伝えなくては一生後悔すると思った。 「花井―――」 俺はズボンが汚れるのも構わず花井の前で片膝立ちをし花井の小さな手を取った。 唇が僅かにその手に触れぴくりと身体を震わせる花井。 でも、逃がしたくない。離さないとばかりに握る手に力を籠める。 「花井、俺は他のαみたいに何でもできるわけじゃない。俺はわりとお気楽な性格で不満に思う事も多いかと思う。俺、花井が番になってくれるなら頑張るから、どんな事でも頑張れるから――だから俺の番になって下さい!」 花井の手を握った手が震える。 全身が心臓になったみたいにドキドキして吐きそうなくらいだ。 「芦崎くん」 俺の名前を呼ぶ声はいつもより力強かった。 花井は何かを決めた顔をしていた。 ――俺ではダメ…なのか?遅かったのか? 他のαに決めてしまった? 「芦崎くんは…変わらなくて、いいよ?」 ひゅっと喉が鳴った。 変わらなくていい―――それは俺とは番えないから変わる必要がない? 「あのね。僕はそのままの芦崎くんが好き、だよ?」 そう言って恥ずかしそうに笑う。 え?嘘。今、好きって言った??? あ、でもそれって友人としてとか? 番になるほどの好きじゃないとか? どう受け取っていいのか分からず戸惑う。 花井はそんな俺を見て小さく「芦崎くんの事がずっと好きだった…」と言った。 頬を染め恥ずかしそうに、嬉しそうに笑う。 それでも混乱して動けないでいる俺に今度ははっきりと言葉にしてくれた。 「―――入試の時ペンを忘れて僕が困ってた時、芦崎くんだけが声をかけてくれてあの猫のペンをくれたんだ…「あげるよ」って。僕はその時の芦崎くんの笑顔に……恋をしてしまった」 猫のペン…。あの大事そうに胸に抱きしめていたペンは俺があげた物だった? ―――思い出した。あのペンは母親から可愛いΩの子がいたらあげてアピールしなさいって入試の日の朝渡された物だった。その時の俺は番だとかアピールだとか興味なかったし、入試の日に何言ってるんだって思ったくらいだった。だから深く考えもせず困ってるならってあげたんだ。 俺はそれっきり忘れてしまっていたのに花井はずっと大事に持っていてくれた。 「合格できたら思い切って告白しようって思ってたんだけど……いざ芦崎くんを目の前にすると勇気がでなくて……そうこうしてるうちに芦崎くんは美園くんにアピールしてしまったから…。でも、この気持ちだけは大切にしたかったから番になれなくてもずっと想い続けようって思ってた。―――だから芦崎くんが変わる必要なんてなくて……そのままの明るくて優しい芦崎くんが…好き、です。僕を芦崎くんの……番にして下さい……」 ぽろりと涙が溢れた。 嬉しい。 俺の中にもこんな燃えるような激しい感情があったんだ。 花井の事が好きですきでたまらない。 ずっと好きだったとか、番になれなくても想い続けるとか…。 信じられないくらい嬉しい! やっぱり俺はαだ。 ―――『ご機嫌な』でもなんでもちゃんとαなんだ。 こんなにも花井の事を求めている。 俺は花井を抱きしめて花井から香る匂いを胸いっぱい吸い込んだ。 微かに香る優しい匂い。 そう、これだ。俺の好きな匂い。 何で今まで気づかなかったのか不思議なくらいそれはΩのフェロモンだった。 花井から香るフェロモンは幸せの匂いがした。 俺たちが番になって作る二人の匂いもきっともっともっと幸せな匂いにちがいない、そう思うと踊り出してしまいそうなくらい嬉しくなった。 ー終ー
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加