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何の脈絡もなく連絡先の交換を申し出る僕を軽蔑もせず快諾してくれて差し出す必要もないのに勢いあまって取り出したスマホを馬鹿にもせず。
自分でも信じられないほど手が震えて意味不明な問いかけをしたのに友達だと思ってくれて嬉しいと花が咲くような彼女の笑顔に僕は夢見心地で。
チャイムに邪魔されて教室に戻る事になって残念そうにした彼女が無性に愛らしく感じて何故か名前で呼んでほしいと思った心の声が口をついた。
──きっと僕は、浮かれていたんです……
だけど教室に戻ってから冷静に考えると無計画なまま強引に聞き出したかたちになった事で不快な思いをさせたかもしれないと不安を覚えて彼女をまともに見る事も出来ないまま一日が終わってしまった。
隣の席に居るのに会話を交わす事もなければ図書委員の仕事で一言二言しか話した事もない僕と友達になって彼女は本当に嬉しいのだろうかと。
──だったら……このメッセージは嘘、なんでしょうか?
スマホに届いた彼女からのメッセージを見つめながら思案するも嘘をつく理由があるとも思えず素直に受け取って良いものか五分は悩んでいる。
部屋の中をウロウロ歩き回ってみても答えが見つかるわけもなく素直に受け取って返信しようと思い立ったけど不慣れすぎて言葉が見つからない。
「ネットにも情報がないなんて、不親切すぎます」
困った時は検索だと意気込んで調べたにもかかわらず社交辞令としか思えない例文がヒットするだけで何の役にも立たない。
イライラする気持ちを落ち着かせようと彼女のメッセージをもう一度読んでみると不意にある事に気付いて一言だけ返信する。
[奏]
自分でもわがままだとわかっているものの心の声をうっかり口にしてしまった恥ずかしさと意地のようなものがあって譲れない。
[つい九条君って言ってごめんね、奏君って呼び方でもいいかな?]
[はい]
[ありがとう!私、遥香って名前なんだけど、好きな呼び方でいいよ!]
彼女が白石という苗字だとは知っていたが名前に香りという漢字が入っている事を聞いて癒される匂いをふと思い出した。
しかし何のシャンプーを使っているかなど変態じみていて聞く事が出来ない僕はそんな事よりも彼女の呼び方だと再び頭を抱える。
「ちゃん……は子供っぽいですね。さん……でしょうか?」
女子の名前を呼ぶ必要などなかったのだから咄嗟に思いつくはずがない。
かといって呼び捨てにするという選択肢は家族にさえ様を付けて呼ぶ事が物心ついた時からの習慣になっているせいか不快感がある。
それに僕の中で呼び捨てにするというのは自分よりも下の人間に使うものと教えられているから彼女に嫌な思いはさせたくない。
そう考えているとぼんやりとした違和感を感じた気がして眉を顰める。
──ん……?そう言えば加藤という男子生徒、彼女を呼び捨てに……
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