蝶の鳴く季節

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 恋人を求めて蝶が鳴く。  そんな季節があるならば、きっと今がそうだろう。  君が見る夢は色の変わった古い写真のよう。古くさくも美しく。昔から誰もが描いてきた。  星の満ちる。空の向こうへ行ってみたいと、手を伸ばす。美しく、光り輝く遥か彼方へ。どこへでも、どこにでも。気の向くままに、自由にと。  笑う瞳に光が宿る。天の川よりも更に先、目にも見えない程遠く。憧れの住まう遥か彼方を夢に見て、いつか必ずと誓う。  遠ざかるほど綺麗に見える。そうかもね、と君は応える。それでもやっぱり、と続く。どうしても、と尋ねれば。どうしても、と言った。  何千、何万、何億年もかかる道のりも、魂だけなら一瞬だよねって。君は大真面目に考える。意志と記憶と感情の三つ揃えば、肉体なんて必要ない。だって何よりも自由だから。  一人で行くの?  そうだよ、と。  誰かといたら自由になれない。思うがままに、思う通りに。気の向くままに、気の向く方へ。  君はどこかへ行ってしまった。たった一人で、世界の向こうを目指して。近くに居るの? 遠くに居るの? 返事をしてよと空を見る。  君が世界の果てに行くのなら。君は一人を望んだけど。置いて行かないで。僕も一緒に行かせてよ。  恋人を求めて蝶が鳴く。  蝶の鳴き声は誰も知らない。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!