3人が本棚に入れています
本棚に追加
「はあ。」
彼らの醜い言い争いに耳を塞ぎ、体中に溜まった黒く深い闇を吐き出した。
「サクラ!」
目を開けると、そこには秀俊さんだけが病室にいた。
「…ね?」
私は病室を見渡しながら体を起こしたが、悠人の姿はなかった。
見渡す私を不思議そうに、秀俊さんは見つめていた。
「うん?大丈夫か?」
さっきまで言い合っていたのに、彼は何もなかったように彼の存在を完全に消していた。
「私…どうしたんだっけ?」
痛いのは…頭だけだった。
「うっ…ん。」
激痛が頭を駆け巡っていた。
「サクラ…。」
彼は、秀俊さんは頭を抱え込む私の手をそっと触れてくれた。
「なにも心配することない…横になってて。」
そう言われても、素直に横になることは出来なかった。
確実にこの人は私に何かを隠してる。
私は?
今…目の前にいる彼、藤沢秀俊の妻なのか?
それとも?
…彼の作ったアレで、あの日に戻り私になりふり構わず気持ちを伝えに来てくれた、森本悠人の妻なのか?
そう、疑問に思ってしまう理由があった。
夢でも私の妄想でもなく、目の前にいる秀俊さんとさっきまで声がしていた悠人の両方の妻でいる記憶があった。
「あの!私…。」
私は…病室にいる秀俊さんの顔を直視することができなかった。
最初のコメントを投稿しよう!