10人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
有里沙②
Vlogで乙女脳の元彼とのことをネタにすることにしたけれど、正直、私の部屋は動画を撮れるような状態にはない。
このところの引き篭り生活でゴミ袋が何袋も溜まっているし、
ペットポトルと空き缶は机と床に転がっているし、
キッチンには洗っていないお皿が積み重なっている。
動画サイトにアップされているOLのモーニングルーティンやナイトルーティンで出てくる部屋はどれも綺麗に片付いている。
でも、普段からあんなに綺麗じゃないと私は思う。
絶対、撮影前に片付けたよね。
それに絶対、あんなにお洒落な部屋着着ないし、あんなに手の凝った料理を毎日作らないよね......。
ルーティンとは......?
でも、いいんだ。
私はありのままの部屋を、ありのままの自分を映そう。
私は高校の時のダサジャージを着たまま、キッチンに立った。
そして、赴くままに片付いていないキッチンにスマホをセットして撮影を始めた。
いつも通り冷蔵庫の中を覗いて、使えそうな材料で作れる料理を吟味する。
と言っても、冷蔵庫の中には先週買った茄子しかない。
私は気にせず萎れ気味の茄子を取り出して、水で洗い、包丁で半分に切っていく。
そして、半分に切った茄子の皮に斜めに線を入れる。
フライパンに適当に油を引き、茄子を入れて火にかける。
茄子の水分に油が反応してバチバチと跳ねるが、気にしない。
と思ったけど、思った以上に激しく油が跳ねるので鍋の蓋をフライパンに被せた。
蓋のサイズがフライパンに合っていないが、危機を回避できれば問題はない。
しばらくそのまま火にかけた後、蓋を取って麺つゆと醤油、生姜のチューブを適当に入れる。
普通は計量スプーンで測ったりするのだろうが、こういうのは測らずに入れた方が美味しくなる。
適当に沢山入れる。
そしてひと煮立ちさせたら、フライパンごとリビングのテーブルに持っていく。
あ、流石に鍋敷きの上に置く。
あとは赤ワインとグラスをセットして完成。
お酒に合うつまみがあれば、それでいい。
撮影中のスマホをテーブルに持ってきて適当に置き、
箸でフライパンの中のいい感じに油と調味料を吸った茄子を掴み、口に運ぶ。
茄子から油と麺つゆがジュワッと溢れて口の中に広がる。
そして、グラスに入れた赤ワインを口に運ぶ。
うん、合う!
茄子、ワイン、茄子、ワイン、ワイン、ワイン、茄子と口に運び入れ、
茄子がなくなったところでスマホの停止のボタンを押した。
このままだと、停止ボタンを押すのを忘れて呑み続けてしまう。
いい感じに酔った私はそのままカーペットの上に寝っ転がった。
編集は明日にしよう。
そう心の中でつぶやいて、ゆっくり目を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!