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「見た?」
彼女は短く訊いた。
「いや、見てないです」
反射的に答える。やっぱり、さっきの女子はこの渡辺くるみだったのだ。
すると彼女は盛大にため息をついた。
「見たのね?」
確信に満ちたその口調で、俺は自分が墓穴を掘ったことに気づく。
本当に知らないなら、「見た?」と訊かれてもまず「何を?」という反応になるはずなのだ。
「いや、あの……」
これはまずい。非常にまずい。
せっかくこれまで人畜無害なモブ男として平穏無事な高校生活を送ってきたのに。今までの努力が全部水の泡になってしまう。
どう言い逃れしようかと必死に頭を回転させていると、くるみが再び口を開いた。
「覗き魔だって言いふらされたくはないでしょ? ちょっと協力してよね」
「え?」
思わず目を瞬く。協力……って、何にだ?
どうかまともな内容でありますようにと祈りながら続きを待つ。
と、くるみはなぜかふふんと得意げに笑った。
「部活、作ろうと思って」
「……部活?」
こんな中途半端な時期に? わざわざ新しく部活を?
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