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*
「斉藤さん、ご機嫌ですね」
コーヒーを飲みに来た西園寺さんが訝し気に私を見ている。私は軽い足取りで店内を行き来しながら西園寺さんに意味深な笑みを投げる。
「西園寺さん、あとでメール交換しましょうね」
「え、……はい?」
「私たち辻褄を合わせておく必要があるんですよ」
「……」
「私に感謝してくださいね」
私は西園寺さんの耳元に口を寄せる。
「私は泱二さんと、西園寺さんはあの人と、ね?」
最後まで言わなくても伝わるはずだ。
「!」
西園寺さんは、分かりやすく緊張した。
「うふふふふふ」
カシワギと西園寺さんの関係がなんであれ、私は泱二さんにふたりの仲を告げ口するつもりでいた。けれど今回の作戦はそれをはるかに上回る。今回ばかりは、運は私の味方をした。
「……なにを企んでるんですか」
「……」
警戒心を向けてきた西園寺さんに一瞬、不安がよぎる――もしかしてこの人、自分の気持ちに気づかない鈍感さんタイプ? それとも好きな女のために身を引くタイプ? どちらにしてもそれじゃあ困る。
「西園寺さん、ふたりだけで話す時間あります?」
「はい?」
「西園寺さんの知り合いに会わない場所がいいので、私が決めちゃっていいですよね」
「え……ちょ、俺まだ」
まだやるとは言っていない、と続くだろう言葉を先回りして止める。「私、西園寺さんとあの人のこと応援したいんです。言ってる意味、分かりますよね?」
「……」
「まあ、私に任せてくださいって」
人差し指を唇に立て、ウインクしてみせた。
「……」
そして、不信感しか映さない西園寺さんの目はもう見ないことにした。
*
あの日から泱二さんとは毎日メールの交換をしている。
私という女の子が、どれだけ好きになった人に尽くすか、一途か、家庭的か――ということをメインに伝えつつ、泱二さんの日常を教えてもらう。律儀に西園寺さんの情報をくれようとする泱二さんには悪いけど、西園寺さんが今日一日なにをしていたかなんて心底どうでもいいし、ましてや好きな女のタイプとか、『知ってるし!』と思う。それどころか『彼の好きな人、あなたの彼女ですけどね』と書きたくてウズウズしてしまうけれど、なんとか堪えて健気な片想い女子を演出している。
ああ……、早く泱二さんの心が私に向かないかな、
スマホを握りしめて身悶える。
……なんとしても西園寺さんを味方につけないと。
なのに……。
西園寺さんに今回の計画を話したのは、勝手に約束を取り付けた次の日だった。私が指定した地味なカフェで向き合っていた。
乗ってくるかと思っていたのに、彼はノーリアクションだった。
「ねえ、あなた、カシワギのこと好きなんだよね?」
苛立ちから、つい噛みつくようにすごんでしまった。
西園寺さんは怯んだのか、渋々な感じで白状した。
「……好きですよ」
「それなら私と手を組む、の一択でしょう!」
何を悩むことがあるのだろうか。
私は鼻から息を逃した。
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