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プロローグ
暗い空を見上げてから、両手を窓に付けて恐々と視線を下ろした。高さのせいで路上を確認することはできない。この雨では歩ける状況ではないけれど行き場を失った人たちが皆ちゃんと避難できているのか、他人事ながら心配になる。
私たちは今、駅近くの複合ビル内に身を寄せている。
数時間前までこのビルのレンタルオフィスで打ち合わせをしていた。始まる前、『終わったらレストランフロアへ降りて食事でも』と取引先の人たちと談笑していたが、窓のない部屋に雨音は響き続けていた。その雨が災害級だと知ったのは会社からのメールだった。
――電車止まるかもです。切り上げて直帰してOKです。
慌てて打ち合わせを中断し、帰り支度をした。だがビルを出ようとして、目の前の道路が冠水していることを知った。
+
「――こんばんは。ここ、いいですか?」
女の声に、私は反射的に振り返った。
音もなく開いたドアの前には20代と思われる女がふたり立っていた。
ひとりは、壁を背に座っている中村さんに「ここ、いいですか?」と言ったブルーのフレアスカートを穿いた女で、もうひとりはその後ろからペコ、と首だけ下げたストリートコーデの女だった。服装も雰囲気もまったく正反対のふたりは、果たして友人だろうか? たった今、廊下でばったり会って一緒に中へと入ってきた、と聞かされた方が納得できそうだけど。……などと考えていると、ふたりは支給されただろう毛布を仲良く床に広げ始めた。こそこそと何か話している。そこで確信を得た。――ああ、友達で間違いなさそうだ。
彼女たちへの関心は、そこで切れた。
私は再び窓の外を眺めた。
……それにしても、いつまで降り続くのだろうか。
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