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結局私たちが選んだ店は先日霙に連れられてやって来た居酒屋だった。
……あの時は別の店へと行ったのだが。
「唐揚げと刺身は定番として……あ、ピザがある。こーいう場所のピザって美味いのか? お、ポテトサラダは好きだな~、豆腐も食べたい!」
目を輝かせてメニューを見るトーマルのことを、隣に座る醜男は嬉しげに眺めている。
花嵐も美しい同性を好むので、突如現れたトーマルという存在に強い興味を抱いているのだろう。
「トーマル、お前は食が細いのだから沢山注文するんじゃないよ?」
「大丈夫だ、今とても腹が減っている。それに、若い花ナントカくんがきっと豪快に食べてくれるだろう。なっ、キミ!」
ニカッと急に笑いかけられた花嵐はビクンと肩を震わせると、黙ったままコクコクと激しく頷く。……動揺し過ぎで見ていられないな。
鶏のからあげを一口で頬ばってからトーマルは言う。
「チェーン店の安物でも日本の飯はとても美味い! からあげとビールは最高の組み合わせだぜ!」
その発言を聞いて花嵐はおずおずと口を開く。
「ト、トーマルさんは、その、ええと、ふ、普段は外国でお仕事されているんですか?」
"トーマル"だと? こいつ、自己紹介をしていないとはいえもう馴れ馴れしく下の名前で呼ぶのか? 不細工のくせに。
「定職には就いていない。ただ外国で遊び回っているだけさ」
名前で呼ばれることを好むトーマルは少しも気にすることなく呑気にそう言うと、ハッとした顔をする。
「そうだ、仕事だ仕事。えーと、花嵐くんは漫画家なんだって? 興味深いな。何でカリンと仕事をしてるんだ?」
この問いかけに、花嵐は困ったようにこちらを見る。
「あ、あの、この話って他の人にしてもいいんですかね? ──天道さん」
……"天道さん"ねぇ。
というか、コイツはさっきから舞い上がっていて気持ちが悪い。
そりゃあトーマルはこの私が認めた美人だから浮わつくのも仕方ないだろう。
だが、一番美しいのはこの私だ。
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