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「おーい、ここだ!」
大きく手を振りながら、大きな声を上げる。トーマルは外国に行くようになってオーバーリアクションになったと思う。
店内によく響くその声につられてやって来たのは薄ピンク色の髪をした美しい貌の男。──そして私が長らく恋い焦がれていた男でもある。
「お誘いありがとう」
柔らかな、どこか眠気を誘うような声色。
ハルこと、朧月 春々は穏やかに微笑んでトーマルの隣へと座る。
ああ、やっぱり彼には見惚れてしまう。
「何か頼むか?」
「レモンシャーベット」
「いや何でだよ?! どうしてデザートを選ぶ??」
「夕飯を済ませて来ているからだ。酒も今日は気分ではない」
「なら何故来たんだ!」
「来たかったから」
トーマルとハルのやり取りはまるで示し合わせたコントの様だが、ハルの方は終始真顔で彼も彼でクセの強いマイペースだ。
「そんな理由でよく嫁さんが許してくれたな」
呆れた様に呟かれたそれに少々胸がざわめく。
「矢い子さんは実家にいるからな」
「遂にヤイコちゃんに愛想を尽かされたのか。実家に帰られるだなんて……」
「矢い子さんが不在なのは今夜だけだ。夕飯だって愛妻弁当だった」
他人に興味がなく恋人を作らなかったハルは、ある日突然恋の雷に打たれてトントン拍子に結婚した。
誰のモノにもならないと思っていた彼が私でない他の誰かを想うのはとても辛いことで、嫉妬心から彼らの仲を引き裂くようなマネをしたこともあったが……あれは本当に無様だった。
好きな人を祝福出来ないどころか傷つけてしまうだなんて愚者がすること。
私はこの美しい容姿に見合う気高さと自尊心を持ち合わせないとならないのにそれが出来なかった。
自らの想いを告白して謝罪をすると、ハルは私を許してこれからも友人として側にいてほしいと言う。
彼は心まで清らかだ。私も彼を見習って"嫉妬"などという醜い感情を捨てないといけない──なのに。
「あ、あの、春日井先生、ですよね?」
花嵐の、前髪の下にある両目が真っ直ぐにハルを捕らえている。
私が美しいと思っているのだから、コイツがハルをそう思うのは当然だ。
だが、それがとても不愉快に思った。
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