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「まさか天道先生が漫画原作を引き受けて下さるなんて。本当にありがとうございます!」
満面の笑みでペコペコと頭を下げる霙に、コーヒーを一口飲んでから答える。
「ほんの気まぐれさ。だが引き受けた以上は良い働きをしよう。初めてのことでも無様を晒すのは私の沽券にかかわるからね」
「そう言ってもらえるとこちらも大変心強いですよ。……よかったな、ハナちゃん。憧れの天道先生と一緒に仕事が出来て」
「あ、はい。そうですね、」
何だその浮かない反応は? この私と一緒に仕事が出来るんだ。そこは馬鹿みたいに手放しで喜ぶところだろう。
さっき睨んだことを根に持っているのか? デカイ図体のクセに狭量なヤツだな。
「それにしても、最初は断られていたのにどういう心境の変化ですかね?」
「さっきも言ったがただの気まぐれだよ。この私に出来ないことはないのだと証明するにはいい機会だ」
「素晴らしい向上心だ。ハナちゃんも見習わないと!」
霙に豪快に背中を叩かれた花嵐は盛大にコーヒーをむせる。
「そう、ですね。おれもカリ──天道さんの考えたストーリーに相応しい絵が描けるように頑張りたいです」
「そうそう、その意気だ。……ああ、そういえば──」
霙は私と花嵐の顔を交互に見た後、平然とこんなことを言った。
「この前の親睦会はどうでしたか?」
……それを聞くのか。忌々しい記憶だ。
「別にどうもしない」
"酒で正体をなくしてその醜男と一夜を共にしました"なんて失態中の失態を告白することなんて出来ずに淡々とそう言ったのに──。
「……そう、ですね。とても、とても親睦を深められました。嬉しかったです」
あろうことか花嵐は意味深にそんな発言をするではないか!
コイツ、わざとだなっ! 不細工で年下のクセに生意気だ!
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