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打ち合わせが終り、表通りに出る。
私くらいになるとタクシーを拾うのも容易く、少し困った顔で立っているだけでいい。
しかし今日は後ろにいる巨漢のせいで簡単にはいかなそうだ。
「何か用?」
前を向いたままで問いかけると、ふへっ?! なんて間抜けな声が後方から聞こえた。
「どうして私の後をついてくる? 君のせいでタクシーが拾えそうにない。よしんば拾えたとしても君に私の家の住所を知られたくないんだけどね」
歩き出した私の後ろをカルガモの子どものようについてくる醜男。
堪らず足を止め、ネイビーブルーの長髪を払いながら振り返る。
「知っているかな? 同性間のストーカーでも逮捕されるんだよ? 私が怖いといって涙を浮かべれば君なんて簡単に死刑台送りだろうね」
「そ、その……カリンさん、」
「名前で呼ぶなと言っているだろう、分からないヤツだな」
チッと舌打ちをすると花嵐は更に畏縮する。
何だ、コイツ? ラブホではわりと強気だったくせにどうしてこんなにも今日は気が小さいんだ? まぁどうでもいいけど。
……どうでもいいけど、一つだけどうしても気になることがある。
歩みを再開させると、花嵐は図々しくも隣に並んできた。ちゃんと車道側を歩いているは良いことだが、少々気にくわないな。
「……花嵐」
「は、はい! カリンさん!」
だから名前で──いやこの際不問にしよう。しかし……。
「君ってヤツはどうしてそんなに無様なんだ」
それは言わずにはいられなかった。
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